コラム-GTE Innovation Challenge 2019-
Tuesday August 20th, 2019
GTE Innovation Challenge 2019
理事長
市川隆治
毎年この時期に開催される一般社団法人カピオンエデュケーションズ主催のGTE (Global Technology Entrepreneur) Innovation Challenge 2019が7月28日~8月2日に和歌山の紀三井寺近くの数多くの合宿を受け入れている老舗の温泉旅館で開催された。今年で4回目となったが、引き続きVECは協賛団体として参加している。
今年の特徴は参加生徒数を思い切って増やしてみたことである。昨年の25人に対して今年は44人。その中にはブルネイ王国からの2名とカメルーンからの1名が含まれる。日本との学校間交流や昨年参加者からの情報提供により応募してきたようである。日本人参加生徒に聞いてみると、学校のポスターを見て応募したとか、ネットで見つけたとか、中には親から勧められて来たという生徒もいた。徐々にGTEの知名度が上がり、起業力教育に関心を持つ高校生や父母に情報が行き渡るようになってきたということで、喜ばしいことである。これまでに参加した生徒の父母からはGTEに参加して良い意味で人格が変わったという評価もいただいているし、また、参加した生徒が是非また参加したいということで、翌年スタッフとしてお手伝いいただくという事例も出てきている。
今年は高校教師の授業参観もあった。ジャストン先生の早口の英語に戸惑ったということもあったが、日本の教育方法とのあまりの違いに目を見張っていたようだ。ある学校教育改革者がとある講演で、「処理脳」から「編集脳」に脳の使い方を変えなければいけないと力説していた。たったひとつの正解を当てる情報処理力が「処理脳」の働きであり、課題解決を考える情報編集力が「編集脳」の働きであるということであった。例えば、白いものを思い浮かべるのは「処理脳」、さらに、白いものを黒にしたらヒットするものは何か考えるのが「編集脳」ということである。私もかねてひとつの正解を当てるジグソーパズル型の教育から課題解決方法を自ら考えるActive learningが重要ではないかと主張してきたが、「処理脳」から「編集脳」への転換という捉え方は分かりやすいと思った。
ブルネイ王国からも生徒二人の引率で英語と歴史を教えているという先生が参加してくれた。話を聞いてみると、ブルネイ王国でもこのような起業力教育を始めているが、ここまで詳細にわたっていないので非常に参考になるということであった。なお、話す英語がきれいですねと水を向けると、幼稚園からずっと教科書は英語なのでと答えていたのが印象的であった。
ジャストン先生の講義は速いので目が離せない
44人の生徒がいる場合、チーム編成をどのように仕上げるのか、ジャストン先生の采配に注目していた。これまではジャストン先生が生徒ひとりひとりの性格を見極めてチームを決めていた。その際、外国人の記憶しにくいであろう名前であっても数日で覚えてしまう先生の能力が遺憾なく発揮されていたが、44人となると難しいのではないかと思われた。
そこで繰り出されたのが、ゲームである。目をつむってつないだ手を握ることによって情報伝達をするゲームやカードゲーム(使用したのは普通のトランプではなく、シリコンバレーで使われているスタートアップ研修用の特殊なカード)によって、生徒同士を和ませ、ゲームをヒートアップさせてお互いに素の性格を理解させた。
さらに、サマーキャンプの事前の宿題にも仕掛けが潜んでいた。あらかじめ自分がContributorなのか、Communicatorなのか、Collaboratorなのか、Challengerなのか、この4種類の分類でいえばどれに当たるのか、自己申告させていたのだ。チームは5人編成で、4種類の性格の人物が最低ひとり含まれるように生徒同士話し合ってチーム編成をさせた。傾向としてChallengerを自認する生徒は少なく、実際にも7人しかいなかったので、第2志望でChallengerを選択した生徒ふたりを加えて、9チームにひとりはChallengerが入るように工夫した。あとはできるだけダイバーシティを尊重して男女でチーム編成するとか、大阪や東京出身者だけかたまらないようにとかの注意があった。それだけで生徒が自主的にチーム編成を成し遂げることができるのか心配だったが、杞憂であった。先生が号令をかけると見事に5人ずつの9チームができあがった。
もちろんそれからが苦難の道で、前回同様「Mind Mapping」等の手法によってだんだんチームとしての課題設定を煮詰めていった。
ここで今年は新たな登場人物として技術面の知見の豊富なメンターの存在がある。普段は社会人や大学院生を相手に起業家教育をしている日本人メンターお二人である。生徒たちが技術的なことで行き詰ると相談にやって来る。彼らにジャストン先生の授業のやり方について聞いてみると、普段のセミナーでこのスピード感で進めたら学級崩壊するとか、それでも高校生はちゃんと受け止めて成長していくので凄いとかと感想を述べていた。実際に起業するのと、起業力教育の訓練としてビジネスモデルを考案するのとの違いもあるようである。アメリカでも、高校生は大人でも子供でもないので自分は教えられないと言っている先生もいるとのことである。
緊張を強いられる講義とエンタテインメントの絶妙な組み合わせについてはすでに触れたところであるが、今年は徒歩で行ける紀三井寺への参観(長い階段を登る)や近隣のビーチに散歩しに行って数十分のリフレッシュの時間を設けた。
はじめの頃の和気藹々のグループディスカッション、この後だんだん顔が真剣に変わっていく
一般社団法人カピオンエデュケーションズでは、今秋から東京で起業力教育の各種プログラムを展開していくと聞いており、それらを通じてますます起業力教育への関心が高まることを期待している。
尾花正啓和歌山市長が授業参観にお越しになられた際に撮影
来賓の尾花正啓和歌山市長を囲んで記念撮影
<参考> 関連コラム
ベンチャー白書2016 I-141ページ 「学び方革命」
ベンチャー白書2017 I-111ページ 「ふたたびのGTE」
ベンチャー白書2017 I-109ページ 「DECA」
ベンチャー白書2018 I-142ページ 「DECA ICDC」
ベンチャー白書2018 I-147ページ 「GTE2018」
ホームページ掲載 「DECA/ICDC 2019 in Orlando」