シリコンバレー通信 Vol. 25 「米国ブロックチェーン業界の中から見えること〜その2」
Tuesday May 29th, 2018
シリコンバレー通信 Vol. 25 米国ブロックチェーン業界の中から見えること〜その2
5月14日〜16日にかけて、ブロックチェーンの祭典とも言えるConsensusがニューヨークで開催された。今年の参加者はなんと8,500人に達し、去年の2,700人から3倍以上に増加した。まさにブロックチェーンへの注目の高さが急上昇していることが伺える。去年のConsensusの様子については「シリコンバレー通信 Vol. 23」でレポートしているが、今年のConsensusは去年に比べて様々な変化が見受けられた。今回のコラムでは、今年のConsensusの様子について去年との比較も交えながら紹介したい。
①ニューヨーク市がブロックチェーンにおける世界の中心地となるべく、NYC Blockchain Weekを開催
前回に比べての一番の大きな変化は、ニューヨーク市経済開発公社がCoindesk社と提携して、Consensusを超越した、一週間に及ぶブロックチェーン関連の行事で満載の Blockchain Week New York Cityを開催したことである。ニューヨーク市は元々金融のハブであり、かつ最近ではテック系ベンチャーも勃興していることから、ブロックチェーン業界の首都となるべく覇権争いに名乗りを挙げたとも言える。ニューヨーク市は歴史の長いFashion Weekと同じぐらいBlockchain Weekを大きくしたいという野望を持っているというのだから、その真剣度がうかがえる。
このBlockchain Weekでは、Consensusが最大の目玉カンファレンスであるものの、トークン経済に特化したToken Summitや、EthereumにフォーカスしたEtherealなど、いくつものイベントが開催され、夜も各地でパーティやネットワーキングイベントが開催され、参加者はマンハッタンを忙しく駆け回る一週間となった。筆者もブロックチェーン業界で働く身として、今回のBlockchain Weekでは、「女性のためのブロックチェーン講座」で講師を務めたり、Blockchain Center Tech & Invest Summitで基調講演を行う機会があった。
②ブロックチェーンエコシステムの広がり
Consensusでは多くの展示企業が出展し、自社のソリューションをアピールしていたが、ブロックチェーンとは一言に言っても、様々な課題解決を行うプレイヤーが出てきて多様化が進んでいるのを感じた。例えば、仮想通貨分野では様々なタイプのハードウェアウォレットのプロバイダーや法人向けのカストディサービスを行う会社などもあるし、またICOを行いたい企業向けに、法務アドバイス、技術面の支援、マーケティング支援などをパッケージ化したサービスを提供する会社も現れている。現在1500以上の仮想通貨が登場としていると言われるが、それらを精査する専門のリサーチ会社もでてきている。今後もこの業界が成熟するにすれ、裾野が広くなり、多様なプレイヤーが出現すると思われる。
③ICOに対する冷静な見方
昨年はICOブームの年ということもあり、好意的に興味を示す人たちが多かったが、その後、様々な詐欺案件なども露見するなど、「良いICO、悪いICO」があることを認識し、何が何でもICOではなく、バランスの取れた考え方をする人が増えてきている。悪いICOが良いICOを駆逐してしまわないように、悪いICOがきちんと取り締まられるようにと法的なガイドラインを求める声も大きくなってきている。専門のリサーチ会社がICOを精査して投資家に情報を提供しているのも、その動きの一環である。
④日本のプレゼンスの低さ
展示企業の中には中国や韓国から参加する企業も多く見受けられた。特に中国系ではプロトコルレベルのブロックチェーンプロジェクトを展開しているところも多く、また韓国からはICONというICOプロジェクトから数多くメンバーが参加しており勢いを感じた。しかし、日本からはテックビューロ社一社のみの出展であり、なんともプレゼンスの低さを感じた。Consensusを体験するために物見遊山で参加している日本人は多かったものの、受動的な参加であり、主体的に貢献をしている参加者は少なかった。日本は法定通貨ベースの仮想通貨取引では世界でも一位二位を争い、また仮想通貨関連の法規制も整備されていることから、世界より進んでいるという幻想を抱く人は多いが、プロトコルレベルのプロジェクトや世界で勝負できるブロックチェーンソリューションという切り口では全くプレゼンスがない、というのが実情だ。単なる投機的な動きだけでなく、ブロックチェーン技術を活かしたソリューションを世界に展開できる日本の企業の輩出が望まれる。
⑤機関投資家の参入を促す基盤作り
2017年の仮想通貨市場の過熱ぶりによって、多くの機関投資家が仮想通貨市場への参入を検討している。実際、過去2〜3ヶ月だけでも100もの仮想通貨ヘッジファンドが立ち上がったという。2017年後半から2018年の盛り上がり後に、仮想通貨市場が冷え込んだことから、足を踏みとどめている投資家もいるが、全体としては機関投資家も参入しやすい基盤作りに向けた動きが明確になりつつある。例えば、米国における仮想通貨取引所最大手のCoinbase社は、カストディソリューションや流動性ソリューションなど機関投資家向けの複数のソリューションを打ち出し、先手を打っている。今後もこの動きは加速するとみられ、それがさらなる機関投資家の参入につながると思われる。
2018年になり、各国の仮想通貨に対する規制の動きもあり、引き続き波乱の業界ではあるものの、過去1年を振り返ると、業界としての成長と成熟を実感した。今後1年の動きからも目が離せない。
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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのフィンテック系スタートアップにて事業開発に携わる筆者が、シリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。
(吉川 絵美)