シリコンバレー通信 Vol. 23 「コンセンサス2017〜ブロックチェーンの世界最大の祭典〜」
Friday June 2nd, 2017
シリコンバレー通信 Vol. 23 コンセンサス2017 〜ブロックチェーンの世界最大の祭典〜
5月22〜24日にかけてニューヨークで、コンセンサスという毎年恒例の世界最大のブロックチェーン関連コンファレンスが開催された。CoinDeskというブロックチェーン・仮想通貨に特化した米国メディアが主催するイベントで、世界中から業界関係者が集う言わばブロックチェーンの祭典だ。昨年は参加者が1000人程度だったのに対して、今年は2500人以上を記録したというから、ここ最近のブロックチェーン・仮想通貨分野への大きな関心が伺える。
筆者が今回現地で参加して感じたことを5つのポイントに絞って紹介したい。
今年はニューヨークのタイムズスクエアのど真ん中にあるMarriott Marquisで開催された
①エンタープライズ向けブロックチェーン連合の興隆
従来のパブリックブロックチェーン(ビットコインのブロックチェーンなど)では企業のニーズに対して柔軟に対応できないという認識から、プライベート型またはコンソーシアム型のブロックチェーンが盛り上がりを見せている。その中でも特に大きい流れが3つあり、Linux Foundationによって主導されているHyperledger(ハイパーレジャー)プロジェクト、Ethereumを法人用途向けに発展させるEnterprise Ethereum Alliance (EEA)、そして金融機関向け分散台帳技術プラットフォームを開発するR3がある。今回のコンセンサスではHyperledgerとEthereumは新規参加メンバーのアナウンスメントをしたり、R3は1億ドルを超える資金調達を発表するなど、それぞれ存在感を示していた。
②アルトコインへの注目
これまで仮想通貨というとビットコインの土壇場で、長らくの間、総時価総額の8〜9割を占めてきたが、コンセンサス前からアルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)が目覚ましい価格上昇を見せ、ビットコインの時価総額は全体の5割を下回った。これはある意味、仮想通貨分野における一つの転換期であったとも言える。日々新たなアルトコインが生まれており、現在は700を超えるアルトコインがあると言われている。
コンセンサス中はアルトコインに加えてビットコインも2700ドル以上という最高値を更新し、仮想通貨市場は全体的に活気を見せ「バブルではないか」との声もあちこちで聞かれた。
世界中からブロックチェーン関連の会社が出展し始終混み合っていた
③ビットコイン原理主義
もともと反政府・反中央集権的な思想のもとに作られたビットコインを強力に支持する生粋のビットコイナーはアルトコインが勃興する中でも、その姿勢、信念は変わらない。逆にビットコイン原理主義から少しでも乖離したアルトコインに対しては一部攻撃的な姿勢を見せる人も中にはいる。特にビットコインが敵だとみなす金融機関や大企業に歩み寄る姿勢を見せるアルトコインに対しては嫌悪感を示す人たちも多い。これはまさに思想・哲学的な領域に入るので、どちらが正しい・正しくないとは言えないものだが、今後もこの思想的な乖離は続いていくと思われる。いわば宗教闘争と言えなくもない。色々な用途・目的に対して、その手段はそれぞれに適したものであるべきだというオープンな考えを持つ人ももちろん多くいるが、目的よりも手段に固執しすぎている人たちも少なくないのが現状だ。
④メインストリームの機関投資家の仮想通貨への関心
これまで仮想通貨への投資家といえば、個人の投機家というイメージだった。しかしここ半年ぐらいで機関投資家の仮想通貨に対する興味関心がふつふつと上がってきている。機関投資家の中でも、特に身軽に動けてリスク耐性の高いファミリーオフィス(富裕層ファミリーの投資)が仮想通貨市場に入ってきている他、ブティック系のヘッジファンドも興味を示しており、仮想通貨にフォーカスした私募ファンドも立ち上がってきている。今回のコンセンサスでは基調講演の一枠に、世界最大手運用会社の一つであるフィデリティ投信のCEOであるAbigail Johnsonが登壇し、フィデリティの仮想通貨への興味関心を表面していた。別のパネルセッションでは、このような大手の運用会社や年金基金等のメインストリームの機関投資家が仮想通貨を新たなアセットクラスと見立てて本格参入するにはまだ3〜4年はかかるだろう、という声があった。このような大きな投資家が参入するにはまだまだ仮想通貨の市場規模は小さいし流動性は限られてしまっている。それを打破することが必要最低限必要なため、今後も数年はリスク耐性の高い投資家が中心となるだろうが、着々と機関投資家の間で仮想通貨の認知度、興味関心は高まっていることを感じた。
ネットワーキングセッションも大盛況
⑤東アジアの仮想通貨への興味関心
ここ最近の仮想通貨ブームは日本や韓国が牽引している部分が大きい。中国は大手取引所に対しての政府の規制によって取引量が急落し微妙な立ち位置にいるものの今後の展開を楽観視する中国人関係者は多い。日本においては今年の仮想通貨関連の新規制の影響や、日本の巨大なFX市場の投資家が仮想通貨投資家予備軍となることのインパクトについて指摘の声が上がった。コンセンサスでは特に韓国からの参加者が相対的に多く、勢いを感じた。中国からも、取引所やブロックチェーン研究所など幅広い参加者が見られたが、日本からの参加者は比較的限られていたと感じた。
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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのフィンテック系スタートアップにて事業開発に携わる筆者が、シリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。
(吉川 絵美)