コラム-学び方革命-
Friday August 12th, 2016
学び方革命
理事長
市川隆治
「学び方改革」というタイトルにしようかとも思ったが、日本の常識的な高校教育からみればもうこれは革命だと思う。もちろん「教え方革命」でもあるので来年以降は是非教育者の授業参観も期待したい。
8月2~4日に一般社団法人カピオンエデュケーションズ主催で和歌山で開催されたGTE2016 (Global Technology Entrepreneur 2016) に参加しての熱い印象である。
「革命」と表現する第一の理由は、シリコンバレーの高校で教えるジャストン・グラス先生(元々は公認会計士)の出色の教師としての資質である。早口の英語で機関銃のようにことばの弾が飛んでくるのに生徒たちは圧倒されとおしだ。ちなみに今回米国のほぼ中央部に位置するカンザス州の高校から女子生徒2人が参加したので聞いてみると、アメリカ人の自分たちでさえ早すぎて戸惑ったので、日本人生徒がついていけるのか心配だったとのこと。サポーターとして参加してくれた帰国子女の日本人大学院生が所々日本語に通訳してくれたのは生徒にとっては有り難かったと思われる。教師としての資質といえば、22人の生徒(日本人17人、米国人2人、パキスタン人2人、ベトナム人1人)を把握する能力は凄い。2日目の朝、生徒たちに名札を伏せさせ、ひとりひとりのファーストネームの記憶を披露したが、外国人の名前であるにもかかわらず、8割方は当たっていた。のみならず、最終日に修了証を手渡しする際、各生徒の個性や頑張った点をひとりひとり丁寧に指摘してみせた。そして何よりも教えることへの情熱が感じられた。
第二には、徹底して生徒たちに考えさせることだ。初日に近くに座っている生徒同士4~5人でチームを作らせ、以後そのチーム単位でビジネスプランを考えさせ、講義とチームディスカッションを交互に実施していくのだが、ディスカッションタイムにはそれぞれのチームに的確なアドバイスを与えていく。実は初日に放射能廃棄物処理を何とかしたいというアイデアを出した生徒がいたが、先生は難しいから止めとけとは言わず、どういうことを考えなければならないかをアドバイスし、あとはチームでのディスカッションに委ねていた。結果そのチームは夜中まで議論して別のプランに変更したようだ。見ず知らずの生徒が集まったチームであるにも関わらず、正味二日ですぐに打ち解けて、熱心な議論が展開されていたが、目は真剣そのものだった。チームリーダーとなった生徒が自分のアイデアが採用されず、チームがバラバラになりかけると、リーダーたる者servant leader として、自ら率先して事に当たるべしとアドバイスが飛んでくる。生徒の考えるビジネスごとに問題点や考えるべき点を次々に指摘していく。この辺りは高校がシリコンバレーにあり、ベンチャーの情報の真っただ中にいるのと、自分の生徒もインド系の2世、3世の起業家の子弟が多いという環境からくるのかも知れない。
第三には、ゲームの多用である。スマホのゲームではなく、自ら体を使うゲームである。一番面白かったのは、サプライチェーン・マネジメントのところで、教室の隅から隅、対角線上に置かれたバケツにキャンデーを投げ入れるゲームで、入れば5点もらえるというもの。しかし投げる者は膝を床につけなければならず、どうしても途中に中継する者を置く必要がある。ひとり置くごとに1点が引かれる。そしてチームごとに点数を競わせる。生徒たちは中継者を何人、どこに配置するかを戦略的に考え、真剣に取り組み、キャンデーがゴールに入るたびに大歓声が挙がっていた。そのときはなぜこんなゲームをやらせるのか分からなくても、後で振り返れば体で覚えているのでその含意が分かるのではなかろうか。このようなゲームはオリジナルかどうか先生に聞いてみると、オリジナルのものもあるし、同僚からアイデアをもらったものもあるということであった。
第四に、このようにワイワイ楽しくやりながら、実はSWOT分析やLean Start-Up Business Model Canvasやバランスシートといった起業に不可欠の知識が散りばめられていることである。財務諸表については日本の高校生にはまるで初めてで、かつ、授業の最後の方で時間が押せ押せの中での説明であったため、消化不良の感は否めなかったが、次回以降は日数を増やしてでも説明した方がいいだろうと思った。
その他、チームディスカッション時にはポップな音楽を流したり、雰囲気作りのうまさはとにかく脱帽であった。
日本では学指導要領があって、教師が自由に教えるのは難しいと指摘すると、米国でも公立と私立では異なり、自分の学校は私立なので自由がきくとのことであった。
報道によれば日本でも学指導要領を改定しようという動きがあり、アクティブ・ラーニング(討論型授業)を導入しようということである。是非関係者には来年以降のGTEの授業参観に来てもらいところである。シリコンバレーに出向かなくても、日本で本場の教育を目の当たりにできるこのプログラムは稀有の存在である。アクティブ・ラーニングを実践するには教師の側も相当の訓練を積まないとできないだろう。
最後に、未来の教育について持論を記せば、今後社会生活にロボットやAIが進出してくるにつけ、我々の持つべきスキルセットはガラッと変わるはずである。それを見越した教育に変えておかないと、将来悲惨なミスマッチが起きるのではないかと危惧する。暗記してひとつしかない正解を当てるという教育は必要なくなり、調べ方さえ覚えておけば、興味がわいたときに自分で調べることができる。それより、身の回りの課題を自分で見つけ、そのソリューションをチームで激論を戦わせながらビジネスプランとして組み立てる訓練こそ、人間がなすにふさわしい能力であり、それこそ日本にベンチャーを根付かせ、経済成長や雇用創造を実現する源泉となるのではなかろうか。