アジア・スタートアップ通信 Vol. 4 「フィリピンのスタートアップ・エコシステム 」
Friday July 29th, 2016
アジア・スタートアップ通信Vol. 4 「フィリピンのスタートアップ・エコシステム」
先日、シリコンバレーにあるスタンフォード大学で、フィリピンのスタートアップ業界の現状についてのパネルディスカッションが開催された。近年注目される東南アジアのスタートアップ業界の中でも、毎年5%以上の経済成長を示し、1億人以上の人口(世界で3番目に英語を話す人口が多いとされる)を誇るフィリピンは注目を集めつつある。
現時点ではフィリピンのスタートアップ業界は先進国に比べると、まだまだ草創期といえるものの、フィリピン政府は、「2020年までに500社のスタートアップが総計2億米ドルの資金調達をして、企業価値が合計で20億米ドルに達する」という非常に具体的な目標を掲げた政策ロードマップを発表するなど積極的な動きを見せている。
スタンフォード大学のイベントでパネリストの一人だったChristopher Peraltaさんにインタビューを行い、フィリピンのスタートアップ業界の現状と展望について話を聞いた。
Manila Valley代表のChristopher Peralta氏
Christopherさんは、オーストラリア出身のフィリピン人で、Nokiaの東南アジアの事業開発等に携わったのち、シリコンバレーに移住をして、現在シリコンバレーとフィリピンをつなぐ起業支援活動を行っている。Manila Valleyという新たなアクセラレーターの立ち上げに奮闘している。Christopherさん曰く、フィリピンのスタートアップのエコシステムに圧倒的に足りていないものは、リスクマネーとビジネスを立ち上げるための知見や支援システムであるという。現在、フィリピンには200~300社のスタートアップがあるとされるものの、フィリピン本拠のベンチャーキャピタルの数はKICKSTARTなど数えるほど。多くのスタートアップがシンガポールなど他国のベンチャーキャピタルに資金を求めなければならない状況が続いており、フィリピン国内での資金源の創出がエコシステム確立のためには重要だと考えている。
フィリピンのスタートアップコミュニティ(Manila Valley提供)
上記の図からもわかるように、フィリピンにもアクセラレーターやインキュベーターが新しく立ち上がってきていることは事実だ。Manila Valleyはその中でも、シリコンバレーとのコネクションを差別化ポイントとしている。先述の通りフィリピンは世界でも有数の英語大国であることからも、グローバル市場と関わりの深い産業が多く出現している。特に、今後のフィリピン発スタートアップでグローバルに展開できる可能性を秘めた業界として以下を挙げている。
- アウトソーシングビジネス:世界有数の英語大国であることからもかねてからアウトソーシングビジネスは非常に活発であったが、今後スタートアップによりさらなるイノベーションが起こることが期待されている。今後の一つのトレンドは先進国向けの遠隔医療。
- ゲーム:フィリピンはゲーム大国と言われており、3000万人がゲームを楽しみ、そのうち40%が課金を厭わないという。フィリピン発のゲーム会社はそのまま海外に進出できる基盤を備えている。
- フィンテック:国外で勤労するフィリピン労働者は現在240万人とも言われており、その多くが母国に送金を行っている。海外送金の分野でイノベーションを起こすフィンテックスタートアップの出現を期待。
- IoT:フィリピンは携帯保有率が人口の113%とも言われており、通信業界が発達している。今世界中で注目されているIoTの分野でも試験的マーケットとしてリードしていく素地を持っている。
このようなグローバル経済と連携した分野のフィリピン発スタートアップをシリコンバレーと繋げることで成長を後押しすることがChristopherさんの狙いである。現在は、シリコンバレーとマニラを行き来しながら、フィリピンで優秀な起業家を発掘し、シード資金を提供し支援体制を整えてから、実際にシリコンバレーに招待して、シリコンバレーのエコシステムを活用しながらグローバルな事業開発への支援を行っている。現在はまだ立ち上がったばかりのため、選りすぐりの数社の支援に専念しているが、将来的にはよりオープンなアクセラレータープログラムを企画・運営したいと考えているとのこと。
Christopherさんは、フィリピン発スタートアップが日本の企業や投資家と連携する機会は多いと見ており、今後積極的な連携を目指している。
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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのスタートアップにて事業開発に携わる筆者が、自分の意見を踏まえてシリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。
吉川 絵美