VECベンチャーニュース(平成27年第2号)-イスラエルから学ぶ―

VECベンチャーニュース(平成27年第2号)-イスラエルから学ぶ―

                         理事長 市川 隆冶

 

3月初めにイスラエルを訪問する機会を得た。経済省、経済省OB、インキュベーター、VC、起業家と、ベンチャーエコシステムを形成する面々に個別にヒアリングをさせていただいたが、日本として大いに学ぶべき点があるとの強い印象を持つことができた。通常同国の報道は政治関係に偏っているが、実は経済面での底力も忘れてはならない。

 

イスラエルは、人口約800万人、面積四国程度の国ながら、国民一人当たりのVC投資額、R&D投資額の対GDP比率、米国NASDAQ上場の米国以外の企業数、ノーベル科学3賞受賞者数のいずれにおいても世界で1、2を争う経済、科学技術先進国である。また、ベンチャー企業が8,000社を数えるといわれる起業家国家でもあり、経済大臣も既に2度EXITを経験した起業家であるとも聞いた。

 

かねて1990年代のソ連崩壊に伴うロシアからのユダヤ系高級技術者、科学者のイスラエルへの移住と兵役における最先端の研究開発及び仲間づくりが同国におけるベンチャー開花の要因とは聞いていたが、それらの点は、特に初期の制度設計をした経済省OBの口から聞くことができた。移住の最盛期には数年間で人口が10~15%増加したそうだ。その際ことばの問題はなかったのかとの質問に、大きな課題であった、彼らはロシア語しか話せなかったので、大急ぎでヘブライ語の習得を促したが、女性の方が速く適応できたようだと話していた。私は英語かなと思っていたのでヘブライ語とは少し意外であった。

 

前日に経済省OBから政策の歴史を聞き、翌日経済省現役官僚から話を聞いたが、その冒頭で、「今は以前とはやり方を変えている。」と明白に言われたのには少々驚いた。確かにかつてその名を轟かせたYozma(ヘブライ語でinitiativeを意味する官製ファンド)は今や民営化されているし、国主導で立ち上げたインキュベーターのいくつかも民営化しているというように、時々の環境変化に敏感に反応し、政策を進化させてきているとの印象を強く受けた。

 

イスラエルにおけるアポは十分に時間的余裕をもって配置しておいた方がいい。その話なら誰々に聞いたらいいと、その場で先方に電話してくれ、電話を受けた方もその人が言うなら会いましょうというように、どんどんアポ先が増えていくからである。シリコンバレーもおそらくかつてはそうであったのではないかと思うが、最近を知る人によれば、今ではコネがあったり、ビジネスの話でないとアポも取れないということである。

 

イスラエルのベンチャーエコシステムは総じてうまく機能しており、また、ITセキュリティーとか創薬、医療、福祉、エネルギー、ものづくりのようなテック系が多く、さらには大学発ベンチャーが主流となっている等、日本がこれから伸ばしていくべき分野での進展が著しく、大いに参考にすべきところがあると思う。昨年7月には当時の茂木経済産業大臣がイスラエルを訪問し、イスラエルの経済大臣との間で産業R&D協力に関する覚書に署名し、さらには今年1月には安倍総理大臣が訪問する等、今後の連携の発展が期待される。日本企業の拠点はほとんどないが、そんな中唯一(株)サムライインキュベートだけがテルアビブの目抜き通りに事務所を構え、日本とイスラエルの橋渡し役を担っている。実に先見の明のある選択である。同事務所によれば、最近の中国や韓国のイスラエル進出は目を見張るものがあり、日本企業は出遅れているということであった。

 

実際にイスラエルを訪問してみて、これまで言われているいくつかの誤解を解いておいた方がいいと思う。

 

曰く、周辺アラブ諸国との戦争があるので危険。

ガザ地区等、国境近くまで行けば分からないが、少なくともテルアビブ市内にいる限りは戦争の匂いはない。テルアビブは地中海に面した人口約40万人のイスラエル第2の都市で、超高層ビルも立ち並ぶ一大商業都市である。海岸沿いにはヒルトンやシェラトンといった高級ホテルもひしめくリゾート地でもある。

 

曰く、パスポートに出入国スタンプを押されると敵対する周辺アラブ諸国に入国できなくなる。

現在では直接パスポートにスタンプは押さず、代わりにブルーカード(出国の際は白)と呼ばれる小さなカードが渡される。審査後にゲートを通る際そのカードを装置にかざすとゲートが開くようになっている。

 

曰く、空港での審査が厳しく、特に出国の際は3時間前には空港に行っていなければならない。

車を降りて空港の建物に入るところで金属探知機の検査があったが、簡素化されているようで、スーツケースを開けることまでは要求されなかったし、見ていると悉皆検査ではないようだった。パスポート審査のところでも極めてフレンドリーなやりとりで終わり、3時間前に行ったため、むしろ空港で時間をつぶす羽目に陥った。

 

ただし、公平のために記すとすれば、次のような苦労も味わった。

たまたま私の乗ったタクシーの運転手は英語ができたが、人によってはヘブライ語オンリーで、アルファベットも読めないことがある(と、イスラエル人が言っていた)。確かに街中の通りやバス停の表記の多くはアルファベットが併記してあって助かるが、少し古そうなものはヘブライ語表記だけのものもあった。ちなみにヘブライ語はアラビア語と起源が同じで右から書くが、ネットを見るときのスクロールバーが最初見つからずに困ったが実は左側にあった。