第163回「無から有を生み出すBizモデル㊲-悪の権化?CDSが農業活性化の決め手に浮上㊤」
Thursday July 25th, 2013
CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と聞くと、1980年代のあの恐ろしいリーマン・ショックの元凶として嫌悪感をあらわにする方が多かろう。しかしこのCDSがわが国の農業を再興する旗手として改めて浮上しようとしている。
CDSなどいわゆるデリバティブは、債権などに対してヘッジをかけるのがその機能である。ローンや債権に対する保証を契約するのがCDSであり貸出先はCDSの売り手と手を結び元利支払いを保証してもらう契約である。むろん保証料が必要でこれは「CDSスプレッド」と呼ばれ、一般に期間は5年、保証料は5%が多い。別の見方をするとCDSはローンや債権に対する一種のプット・オプションであり、債権などをあらかじめ定めた価格で買い、これをオプション料を受け取って売る行為(プット)とみることができるが、実際にこのようなプット・オプションはCDSに限らず金融界では多用されている。
後で取り上げる機会があるかと思うが、かつて流行った仕組債などデリバティブ性の商品などは、顧客を、プット・オプションの売り手に知らぬ間に仕立てあげる仕組が隠されていた。プットはある価格である代物を買うことができる権利であり、コールはこの逆。
ここでは権利が独り歩きを始める。プットの場合、価格が上昇してあらかじめ買う予定としていた価格以上になると損失を出してまでその代物を入手する必要はないから、プットの買い手はプットの権利を行使せずCDSスプレットを放棄する。一方これに対応したプットの売り手は、放棄されたCDSスプレットがタダで丸々懐に入る。ここがプット売りに人気が集まる所以である。だが逆に対象の代物の価格が下がるとプットの買い手は購買の権利を行使するから、それを売る側は底知れぬ損失を味わうことになる。
ここで注意しておきたいのは想定元本である。先のリーマン・ショック時代に誤解された。例で示そう。今、1億円の貸付債権を1億円の想定元本としてCDS化したとする。しかしこの場合1億円が保証されるという意味ではない。この債権のデフォルト確率は10%あり、デフォルトした際は2千万円が、返却不可能になることがわかっているとする。とすると、保証の期待値は2千万円×10%の200万円となり、これは想定元本のわずか2%にすぎない。この世界では想定元本がそのまま返却保証になっていない点は十分注意しなければならない。ある意味でうまみはここにも存在している。
先のリーマン・ショック時には、金融機関はプットを売ってそのCDSプレミアムを利払いに当てた。家を購入するなどで個人との間で発生するCDSは、個人の支払い能力によって、すぐにデフォルトするエクイティと呼ばれる種類から、次に危ないメザニンと、そしてまあ安全とされるシニアの3つに分けられる。金融機関は、このうちメザニンとシニアをまとめ、この集合体に対して債務担保証券(CDO)なる証券を作成し(これをシステマティックリスクという)一般に販売した実はこれが焦げついた。原資となっていたCDSに倒産が出たというのがサブプライム・ローンの実態であった。エクイティを過大評価し、一部をメザニンに組み入れていた悪徳な金融機関もあった。
(多摩大学名誉教授 那野比古)