第162回「無から有を生み出すBizモデル㊱-日本で商品化された『環境金融』の先見性」
Thursday July 18th, 2013
本欄では早くからマイクロファイナンスの問題などを取り上げてきたが、「環境金融」あるいは「エコ預金」という面ではすでに2000年代になって我が国でも地方金融機関を中心に開発がすすめられてきたのは注目すべきことである。対象は地域住民との小口預金。中には預金するとCO₂(二酸化炭素)の排出枠を入手することができるというカーボン・オフセット定期預金なる商品も現れた。
2008年開催された洞爺湖サミット(主要国首脳国会議)が火付け役となり、地域金融機関の新しい商品が次々と姿を見せた。これら記念碑的商品をここで改めて取り上げておくのも無意味ではあるまい。本来の預金の目的である利息という概念の大幅な変節と、サミットといった国際的イベントの誘致が新たな商品・サービス普及への大きな引き金になっている点も見逃してはならない。
お目見えした新型預金は、(1)エコ志向寄付、(2)環境指標連動、(3) CO₂排出権組み合わせ、の大きく3つに分類されている。
エコ志向型は、上乗せされた金利を環境団体などへの寄付にしようというもので、環境応援定期「絆の森」(四国銀行)、(当時の商品名と販売者、以下同)、エコ定期「みんなの尾瀬」(福島銀行)、富士山定期(静岡銀行)など魅力的な名称が付けられている。預金者の参加意識に訴えかけるものだ。
一方、早くも2002年当時敦賀信用金庫という一地方の金融機関が商品化したエコ定期は、地域ぐるみでゴミ減量を志す試みとして注目を浴びた。これは焼却ゴミが減少すればそれに連動して金利が上がるという仕組み。環境改善を指標としたこのような定期預金は、大和川の水質を指標とした「大和川定期」の大和信用金庫、琵琶湖の透明度が高くなると金利が上昇するびわこ銀行の「エコクリスタル定期」など意欲的商品が大手ではなく地方や地方ぐるみで開発されている。
カーボン・オフセット定期預金を出したのは滋賀銀行。当時関係者を驚かせたのはその仕組みで、5年間にわたり預金残高の0.1%分をCO₂排出権の購入にあて証書を受け取る。当時の諸経費で計算すると1千万円の預け金でなんと3トンものCO₂削減貢献になったという。
このようなきめ細やかでしかも薄利の金融は大手銀行には向かない。地域金融機関と地域の企業、ベンチャー、第2創業を結ぶ先見の明として注目される。
(多摩大学名誉教授 那野比古)