第160回「無から有を生み出すBizモデル㉟‐付和雷同に根拠?注目される『集団同期現象』」

 商品なら在庫がきくのが普通。ところが、発生する需要に応じてリアルタイムで生産しなければならない商品がある。それが電力だ。最近は太陽電池や風力など新たな非化石燃料発電による電力網への参加(連係という)があるが、電力網で需要不足などが発生すればピンチヒッターとして大至急稼働を開始するのが火力発電所である。ただしこれを電力網に新たに注入すればいいといいうものではない。

 

 電力という商品にも品質があり、安定した電圧とともに周波数の安定性が求められる。交流として供給されている場合の宿命だ。ということは、電力網につながっている全ての発電機は1秒間に同じ回転数で回転しなければならないことになる。電圧や周波数、つまり回転数が変動すると、それが発電機の回転を変えてしまい、逆にモーターとして機能させ、電力網に悪影響をもたらす。そのため発電機には調速機なるものをもたせて回転のゆらぎを防ぐ。

 

 ところがである。ひとつの電力網につながった発電機は、当初多少の回転数の違いがあっても、やがて不思議と同じ回転数に同期してしまう。

 

 ここで思い出されるのが、1665年にクリスチャン・ホイヘンスが経験した現象である。ホイヘンスは振子時計の発明者として著名なオランダ人。彼はこの特許で大金を得たが、ある日、揺れが全く違う2つの振子時計を壁に掛けておいたところ、しばらくたって見てみるとこの2つの時計の振子は全く同じタイミングで振れて同期していることに気付いた。追試してみたところ、最初は振子の振れが左右逆であっても同期したというのだ。初の「集団同期現象」の発見である。

 

 2本の同じ直径の筒を並べ、その上に板を置く。さらにこの板の上にいくつかのメトロノームを載せる。各メトロノームはチックタックと異なる拍子で左右に動いている。ところが、時間がたつと驚くなかれ。不揃いだったメトロノームの動きが完全に一致。つまり同期してしまっているのだ。

 

 これは有名なメトロノームの共振同期実験だが、このような集団同期現象は、個々ではバラバラなリズムを持つ生体の中のニューロンも、結合させると必ず同期することが証明され、心臓のペースメーカーに応用されようとしている。

 

 現在、集団同期現象は自然科学の世界ばかりでなく、広く経済社会現象への利用も考えられている。一種の相転位ともみなされるこの現象を、株価や政治に応用しようというベンチャー企業が現われても不思議ではない。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)