第158回「無から有を生み出すBizモデル㉝-既存資源の活用に注目せよ-新規が全てではない」

 前回、使用電力量を格段に減らし、かつブレーキ使用時での回収電力を大幅に向上できるSiC(炭化ケイ素)インバーターを紹介した。これは電力不足に対して巨大投資・増産で対応するのではなく、節減技術によって既存資源をそのまま活用できるという意味で取り上げた。

 

 経済成長は新しい製品・サービスの開発のみに依存するものではなく、現存する資源をいかに効率よく使うかという“見直し技術”も極めて重要である。既にある資源は、新たに開発する製品・サービスと異なり、その規模・市場性が明確で不安定リスクが少なく、新たにつぎ込まなくてはならない投資も少なくて済む。その例を石油・天然ガスについてみてみよう。

 なにしろこの市場では、既存資源の70%はまだ眠ったままで、しかも可採年数は石油で40年、天然ガスで46年、と先細りの世界。そのため新油田・ガス田の開発が世界中で進められている。ブラジル沖水深1000mで発見されたサントス海盆の巨大油田はその一例だ。ここ10年では、スーダン、ガーナ、渤海などで大油田がみつかっており、トルクメニスタン、イスラエル沖、モザンビーク沖では巨大ガス田が発見された。

 しかし、発見とそこからの採掘とは別問題で、深海からの生産は技術的・経済的に大きな困難を抱えている。石油について言えば、通常の自墳、ガスリフト、ポンプなどの採油では30パーセントしか取り出せないため、高圧水注入や高圧ガス圧入によって回収率を上げる二次回収が適用されている。ガスにおいては、CO2圧入が中東などで実験され注目を浴びている。

 

 一方、もっとゆるやかな改良型回収(IOR)が台頭。主にアンクル社などベンチャー企業がこの分野の技術開発を担っている。具体的には、長距離水平坑仕上げ技術、多段ハイドロフラクチャリング、坑井酸刺激技術、大偏距井掘削技術、マイクロサイスミック検層技術などである。

 実は本稿でも何回か取り上げた米国のシェール(頁岩)ガス開発にはIORで確立された技術が大々的に活用された。技術転用の著例である。おかげで、米国の天然ガスの価格は通常のものと比べ、シェール・ガスの単価が5分の1という快挙となっている。残存油田から今後大油田50個以上に相当する石油回収が期待されており、新規開発のリスクと比較して、いかに既存油田の活用が大切かがおわかりいただけるであろう。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)