第157回「無から有を生み出すBizモデル㉜‐わが国独自製品に注目‐省エネの旗手『SiCインバーター』」

 6月初めに発表されたアベノミクス第3の矢では、我が国独自の技術力による将来展開にスポットが当てられた。ベンチャー企業の育成に力点が置かれるとの見方もあったが、具体性の乏しさに落胆した方も少なくなかろう。

 

 ところで日本独自の技術には、すでにエネルギー損失を30~40%低減できるとか、回収エネルギーを倍増できるといった世界に誇る汎用的省エネ製品が実用化されようとしている。この製品が電車や工場に適用されれば、エネルギー消費の低下は計り知れない。

 東京に来られた際、ぜひ注目していただきたいものに、東京メトロの銀座線(渋谷~浅草間を走る)01系の特装電車である。

 なぜこの電車が注目されるのかというと、世界で初めてSiC(炭化ケイ素)素子を用いたインバーター(パワー変換装置)を搭載しているからである。このパワー装置はSBD(ショットキー・バリア・ダイオード)と呼ばれるもので、従来のSi(ケイ素)素子のダイオードに比べ大幅な省エネ・軽量化が実現された。

 

 まず一般の人にとってわかり易いのは、本格的な回生ブレーキの登場とそれによる回収電力の向上であろう。電車などのモーターは、下り坂走行などの減速時に逆回転させると発電機と化し電力を発生する。従来のSi素子ではこれによる温度上昇に耐えきれず、速度が35~40km/h過ぎからの回収電力は抵抗器などを通じて破棄するとともに、ブレーキは通常の機械式を用いていた。ところが、SiC素子は耐熱性が高く、速い速度でもSiC製インバーターを回生ブレーキとして使用できるようになり、回収電力量は2倍となった。

 インバーターはスイッチング動作によって直流を交流に変える装置だが、SiC製にすると、ここで消費される電力は30%節減された。SiC製は従来のものに比べ高い周波数でスイッチングを行うため、出力される電流の波形もより正弦波に近くなり、それが駆動するモーターの電力効率を上昇させて、損失は40%低減されたという。この回生ブレーキでは、これまでの機械式を使わなくなる分だけ騒音が劇的に減るというおまけまでついた。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)