第141回「<特報>追い風の中のベンチャー育成-重要記事2本の要旨」
Monday February 25th, 2013
① 企業を増やして経済の活力を高めよう 〔2013年2月20日日本経済新聞社説〕
脱デフレを掲げる安倍政権の登場で、日本経済は活気を取り戻しつつある。この勢いを一時的なものに終わらせず、息の長い成長につなげたい。重要な課題の一つは、次の時代を切り開く新しい企業を育て、停滞しがちな日本の産業の新陳代謝を促すことだ。
企業創出の重要性は長らく指摘されてきたが、数字で見る限り情勢は甘くない。日本の新規株式公開は2000年の204社がピークで、その後、減少傾向をたどり、去年は46社だった。
1年間に新規に生まれる企業の数を全企業数で割った開業率も、米英が10%を超えているのに対し、日本は5%程度にとどまる。
だが、目を凝らせば、変化の予兆もみえる。若い世代を中心に「自ら企業をつくろう」という機運が徐々に高まっているのだ。―(中略)―
起業家熱が高まる背景には、技術革新もある。IT(情報技術分野で顕著な現象だが、安価なクラウドサービスの登場などで、会社をつくる際の初期コストが劇的に下がった。これが起業に対するハードルを引き下げ、多くの人が「失敗してもやり直せる」と安心感を持つようになった。
この流れをさらに強くするにはどうすればいいか。ひとつは大企業が自前主義を改め、ベンチャー企業への出資や提携を積極化することだ。米シリコンバレーでは大手とベンチャーの提携が日常茶飯であり、両者の連携でイノベーションが加速するなど地域全体の競争力を高めている。日本も新興企業に門戸を閉ざさない、よりオープンな企業社会をめざしたい。
政府の仕事は、農地利用など各分野に残る規制を改革し、意欲を持つ人が伸び伸びとビジネスをできる環境を整えることだ。急成長企業がつまずくと、「それ見たことか」とばかりに批判する世間の風潮も改めないといけない。
② 日本の昨年度ベンチャー投融資 米国の20分の1 〔2013年2月22日産経新聞12面〕
通信会社が自らベンチャー企業支援に乗り出すのは、日本では資金面など起業支援の基盤が脆弱だからという事情がある。ベンチャーエンタープライズセンターによると、日本のベンチャーキャピタル(VC)による投融資額は平成23年度で1240億円と、米国の約20分の1にすぎず、企業の成長を育む体制は見劣りしている。
海外のベンチャーはVCに支えられて成長し、国境をまたいで活躍している例は多い。これに対し、日本のスマホ向けアプリやネット用コンテンツなどを開発する企業では、資金不足などから「作成者がワーキングプア(働く貧困層)状態になっている」(ITベンチャー経営者)との悲鳴があがる。通信会社の豊富な資金がベンチャー企業に向かえば、事業継続の支援につながる。
ドコモは、新たなベンチャー投資ファンド運営会社「ドコモ・イノベーションベンチャーズ(DIV)」を、今月下旬に設置。運用総額100億円のVCを設立する。-(後略)
(多摩大学名誉教授 那野比古)