第140回「<特報>恒例の『ベンチャービジネスに関する年次報告』(略称『ベンチャー白書』)2012年度版を発表-望まれる幅広いM&A市場の確立」
Monday February 18th, 2013
当一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(市川隆治理事長、略称VEC)は去る2月15日、『2012年度ベンチャービジネスに関する年次報告』を発表した。
本白書によると2012年度のベンチャー企業に対する投資は前年度比9.5%増の1240億円。件数にして1017社。ステージ別ではシード期への投資が前年度4.4%から15.7%へと急増しており、将来性を見込んだ早期での投資が注目されている。ちなみに米国で最も多いのは依然としてアーリー・タイプ。一方ベンチャー・キャピタル(VC)のベンチャー向け新規ファンドの組成状況をみると、金額、本数とも前年度から倍増、1197億円、31本となった。一方EXITも最悪期を脱出、2012年度のIPOは48社(うち2社はプロマーケット)であった。
市川理事長は、今回の白書について、起業家を称賛する風土作りのほか、ベンチャーに目を向けさせるためのM&Aの活用が必要とコメントしている。
M&Aについて補足すると目的については、救済合併、技術・ノウハウの継承、コスト削減、シェア拡大、二重投資の回避、新事業への進出、第2創業、資金調達手段など様々。団塊世代社長の退陣で、その継承が叫ばれているものの、わが国では、どのような中小企業がどのような技術・ノウハウ・人材をもっているかの汎用的な開示がないため、大手を含めその内容の知りようがない。ここにも規模相当のM&A市場の必要性が顔をのぞかせている。
上記目的のひとつに、資金調達が入っているのを意外に思われる方もあろうが、これはひと口に言うと新しい動きLBO(レバレッジド・バイアウト)のこと。買収・合併を狙う企業を担保にして金融機関から融資を受け、そのカネでその企業を買収するというM&A変形版の手口。
一方設立ベンチャーを売却し、その資金で新たに起業するという方向があり、これがうまく機能循環しはじめると、国自体が巨大な連続企業体となる。このような動きは米では極めて盛んで、ネット決済大手のペイパルまで築き上げたイーロン・マスク氏は、同社を売却するや今度は、革新的なEVのステラ・モーターズ社や宇宙ビジネスへの扉を開いたスペースX社への投資を行っている。米国のEXITでは、ここにきてM&Aの比重が極めて高くなってきている。2011年の米EXITを件数ベースでみると、M&A 90%に対してIPOは10%にしか過ぎない。この傾向は1990年と比べると完全に逆転しており、それ以来M&Aが急伸をみせている。
M&Aで得た資金による起業は、企業家が温めていた分野への投資となり、この場合ほとんどは従来にない新分野であることが特徴。M&A循環は別の面でみるとハイテク分野を事業化させる重要な引き金となっている。逆にこの原理がうまく動いていないと、企業家はハイリスクな新分野への進出が果たせなくなる。
別の観点からすると幅広いM&A市場の存在は今後の国力を左右する試金石といっても過言ではない。
なお本白書の展開は次の通り。
§1. 国内ベンチャー投資動向
1. ベンチャーキャピタル等投資の動向
(1)2011年度のベンチャー投資動向
2011年度概況 - 前年度比やや増加して1,240億円
業種別・企業ステージ別動向
若手起業家による活発な起業の動き
アジア向け投資の活発化
(2)VCのファンド組成状況
2011年度の状況 - 組成金額・組成本数ともに倍増
VCの努力で海外からの出資も主役に
2011年度のファンド組成環境は厳しい、2012年度も続く
独立行政法人中小企業基盤整備機構のファンド事業
(3)投資回収(イグジット)の状況
2011年度のイグジット状況 - 最悪期は脱したようだ
新規IPOの動向
§2. ベンチャー企業(VB)向けアンケート調査
1. 回答VBのプロフィール
(1)業種
(2)企業ステージ
(3)目先の業績予想
2. アンケート調査結果概要
(1)今後の事業展開とIPO
グローバル化指向は低下
IPOに対する展望は減少
(2)当面の経営ニーズ
人材ニーズ
販路拡大
資金調達
§3. ベンチャーエコシステムの好循環に向けて
1. 経済成長はイノベーションから イノベーションはVBから
2. 日本の部門別資金余剰および資金不足
3. ベンチャーエコシステムと資金循環
(1)資金も指導も必須 - IT関連分野
(2)一般製造業・サービス業の起業 - VCの支援が必要
(3)エネルギー関連等大規模起業
(4)大企業からベンチャー企業への資金フロー
(5)年金資金のファンドへの受け入れについて
4. 海外投資家への期待
5. 大学・大学院の関与するベンチャー振興策
(1)ベンチャー教育へ政策的支援
(2)大学発ベンチャー
以上
(多摩大学名誉教授 那野比古)