第138回「無から有を生み出すBizモデル⑮-選挙運動ネット開放で最大の懸念は不正侵入の誘発」
Thursday February 7th, 2013
インターネットを選挙運動に開放する動きがここにきて急に高まりをみせているが、怖いのはインターネットがもつ特殊性。選挙に係わりをもつ人ばかりでなく、全く関係のない人、例えば未成年を引き込む可能性があり、また選挙に無関心だった人々をあおり逆陣営に立たせてしまうといった危険性もある。今回はこれまで指摘されている「なりすまし」の問題(次回で取り上げる予定)以上に大きな油に火を注ぐことになりかねない、インターネットがもつ根本的な不正侵入への誘発という問題について取り上げたい。
この問題を議論するに当たって、我々の間で最もよく引き合いに出されるのは、2011年4月に発覚した米国ソニーでの個人情報流出事件である。日本を含む何と世界最大7700万人分もの登録情報がハッカーによって盗み出された。しかも、そのきっかけとなったのは当時21歳の米国人ジョージ・ホッツであり、彼に同情しソニーに反発した世界のハッカーによるサイバー攻撃がソニー・コーポレーション・オブ・アメリカ(SCA)に集中、同月17日から19日にかけて、プレイステーション・ネットワーク(PSN)などに侵入、7700万もの膨大な会員パスワード、IDなどが流出してしまった。一部の会員情報の改ざんもみつかっている。そのためソニー側はサービスの運用停止を余儀なくされたが、この問題はいろいろ考えさせられる所がある。前述のジョージ・ホッツはすでに天才ハッカーとして全米で知られており、若干17歳で2007年、当時のスマホiPhoneのセキュリティの破り方を公開したことで知られている。
面白いことに、当時Googleの携帯のOSアンドロイドも出始め、多くの欠陥がみつかっているが、この悪用を見張るある企業のセキュリティ部門の長は何と当時16歳、名門神戸・灘高2年生の丹羽直也さんだった。先の米国ソニー(SCA)では、2011年初め、ジョージ・ホッツがプレイステーションについての解読情報を海賊ソフトとしてネットワークに公開。これがSCAを知的所有権違反として怒らせた。当然訴訟に発展したが、両者は3月和解によってホッツは海賊ソフトを引き下げ解決をみた。だがおさまらないのはこの動きをみていた世界のハッカーたちだ。「海賊ソフトが簡単に作られるようなセキュリティしか持たないのはソニーに責任がある。そのセキュリティを破ってどこが悪い。ソニーは自由な技術の発展に対し和解によってとどめを刺そうとしている」とばかり大反発、先のような会員データの流出となった。
この事件が示唆しているのは、参加者の低年齢化と、逆の形での共感の暴発である。偽サイトに誘導して他人のIDやパスワードを盗みとる「フィッシング」については後で述べるが、このやり方はネットワーク上でいくつもソフトが入手可能となっており、昨年秋には、大阪府の男子中学3年生14歳が、また石川県の同じく14歳の中学3年生がそれぞれ偽サイトを構築したとして不正指令電磁的記録作成などの非行で補導されている。
選挙運動のネット化はこのように従来の選挙制度にはない全く新しい問題を姿や形を変えて出現させる恐れがある。その基本はネットワーク自身に内在する弱点の顕在化であることを決して忘れてはなるまい。
(多摩大学名誉教授 那野比古)