第131回「無から有を生み出すBizモデル⑨‐選挙で期待した「クラウド・ファウンディング」だが…」

 去る12月16日、大波乱のうちに第46回衆議院選挙は幕を閉じた。自民党は同院の過半数241を上回る圧倒的勝利を示す一方、民主党は選挙前の4分の1以下という惨敗を喫した。現職閣僚の落選数も見事で、現憲法下過去最多だった3人(2回)を軽くクリア、今回は何と初めて8人が落ちた。本欄ではすでにクラウド・ファウンディングについて何回も取り上げており、今回の選挙でもこれが初めてわが国でも大きく活用されるかとの期待があったが、これは簡単に裏切られた。

 わが国での公職選挙法では、選挙期間中に議員らが有権者に配布する媒体は、ハガキやビラに限りしかも枚数が限定されている。ホームページやメール・マガジン、ブログ、交流サイト(SNS)で選挙に関わる更新や書き込みをすると前述の違反文書図書に当たるという。ネット上、特にクラウド上での選挙活動を認めると、使い慣れているスタッフを抱える人が有利となる一方、なりすましによって中傷、誹謗が発生することなどがネット利用慎重さの理由だが、実際には明確な条文や判例は無く、どこまで以上が違反になるかは極めて不透明で、その判断は難しい。

 具体的には上記のほか、総務省に届け出たマニフェストの配信、同ホームページへの掲載、第三者による特定候補への応援サイトの開設なども公選法で禁止されている。

 来年詳しく述べるが、米国流のネット利用の選挙活動は一切禁止ということである。ところが今回の選挙では、この規制に抵触しないように政治サービスが相次いで姿を現し注目された。

 ヤフーは「マニフェスト・マッチ」と称する機能でユーザーが自分に合う政党探しが出来るサービスを公開した。

 ツイッター日本法人は、「#総選挙」と称して、衆院選挙に関する投稿をまとめて閲覧、判断材料と出来るページをオープンにしている。

 ここで注目すべきは、楽天の会員向け献金サイトの「政治LOVE JAPAN」(政ラブ)だ。選挙に行こうキャンペーンを進めることによって、政治参加を促すというのが狙いだが、実は中味は中々洗練されていて、まさにわが国における「クラウド・政治ファウンディング」の先駆けになっており、クレジット・カードやネット銀行からの振り替えが出来る点に注目しなければならない。

 このサイトでは、立候補者一覧の名簿がある。献金する人は、この中から好きな人をクリックし、金額、氏名年齢職業、献金先へのメッセージなどを入力すると申し込みは終了。金額は資金規制法で1千円から150万円に限られている。ここでは政治家個人への献金となっているが、実際はその政治家が運用するいずれかの資金管理団体への寄付になっている点に注意。ネット側もちゃっかり献金サービス料は頂く。このケースでは1件の献金につき、金額の5.25%+105円が楽天の懐だ。

 日本の政治家の収入は限られている。個人の出資や覚費や公費、寄付、パーティー事業からの収入などだ。問題は寄付の部分。これまでは知り合いなどの中から細々と献金を集めていたが、その額は限られている。

 そこに強力なパワーを発揮し始めたのが、ネットワークを活用した資金集めだ。その初代がオバマ大統領。米国については詳しくあとの回で取り上げるが、その中心となるのがクラウド・ファウンディングである。これから益々の盛り上がりが予想されている。

(多摩大学名誉教授 那野比古)