第128回「「CSV」無から有を生み出すBizモデル⑥‐営利とステーク・ホルダーの参加意識とを両立させる」

 米国の洗剤メーカーのP&G社は、社会貢献に熱心な企業として知られている。そのひとつが発展途上国を対象に広く配布されている「ピュア・パケット」だ。これは泥水でも通過させると飲み水にまで浄化出来るという代物で、P&Gの名をアフリカ奥地まで高めた。

 一方P&Gは、UNCEFに対し、ワクチンの寄付を行っている。これは赤ちゃんを持つお母さんにおむつをある量かって頂くと、ワクチン1本分を寄付するというもので、衛生状態が悪く伝染病に苦しむ発展途上国の子供の姿をニュースなどで見ているお母さんの心を強く揺さぶった。同社のおむつの売上げが増大したばかりでなく、P&G社全製品の売上げ増につながった。

 前回のポーターがCSV(クリエイティング・シェアド・バリュー)への扉を開けるきっかけの一つは、トヨタのハイブリット車プリウスであったと書いたが、プリウスと前記P&Gおむつとの相関点は、少々価格が高くとも消費者はそれを購入することによって、環境の悪化防止や発展途上国の子どもたちの健康維持に自ら役立つことが出来るという社会問題解決への参加意識が根底にある点である。これがCSVの特徴である。

 これに比べて、冒頭で述べたピュア・パケットの場合は、P&Gなどが一方的に配布する、いわば社会慈善型で、これまでみた範疇からするとCSR(企業の社会的責任)に属する。

 CSRについては、これまで発展途上国を対象に、マラリア対策のための蚊帳や、へき地の小屋に最小限の電力(電球1個とテレビ)を供給するためのソーラー・パネルの配布などが実施されてきた。ソーラー・パネルではドイツの企業が日本製のパネルを購入しユニットとして配布。日本は何をしているのかと問題になったこともある。また森林の環境破壊に対しては、植林を推し進めている企業もあるが、この問題については今、CSVのホットな課題となっており、改めて取り上げる予定である。

 こう見てくると、CSVは企業の一方的な社会貢献ではなく、企業とステーク・ホルダーが一体となって、相方に価値・メリットを創出しようという動きであり、目的を意識したステーク・ホルダーの参加型となっている。その裏には営利の追求だけでは企業の存続(サスティナビリティ)が危うくなるという危機感がある。

 企業の存続性と環境や生活向上の解決を同様に解決するという、新しい企業のベクトルが示され始めた。ブランド・イメージだけでは顧客は騙されなくなってきている。

 企業が社会の一員として存続していくために、まず考えられたのがCSR(企業の社会的責任)であり、これには社会的不公平の是正やかんきょうへの配慮を経営活動の中に組み入れる責任が求められている。

 この90年代からの高まりの中には、法令順守、消費者保護、人権擁護、環境保持などが具体的に示されており、コーポレート・ガバナンス(企業統治)とディスクロージャー(情報公示)は企業の責任とされるに至った。これによって、雇用の創出や地域への貢献が明らかにされる。文化活動を積極的に支援する「メセナ」の考え方が生まれたのも、この頃である。

 このステーク・ホルダー重視の経営はやがて、CSRへの取り組みを新たな投資手法にしようという発想が生まれてくる。それがCSVだ。

 社会貢献や慈善のためのコストを考えるのではなく、製品・サービスの拡販のための必要出費と考える。新たな「自然事業会計」なる概念も生まれてきた。


(多摩大学名誉教授 那野比古)