第126回「無から有を生み出すBizモデル④‐個人投資家不在とベンチャーつなぐリスク・マネー」

 出資は融資とは違う。融資はカネを貸すことで貸金を回収する権利をもつが、出資はあくまで投資にすぎず、手にするのは株券だけで、いつ紙くずとなるかはわからない。

 特にベンチャー企業への出資はそうで、リスク・マネーの最たるものである。1980年代日本のベンチャー・キャピタル(VC)黎明期に、あるVCが投資したベンチャー企業が経営に行き詰った情報をキャッチ、直ちに倉庫にトラックを乗り付けて在庫品を“出資のカタに”持ち出したという事件があった。この行動は“強盗ファイナンス”と批判を浴びたことがあった。多少の融資もしていたのだろうが、それにしてもリスク・マネーと融資が完全に区別されていなかった。

 経済界でリスクとは、将来予見不可能な損失をいう。但し、計量化が可能で、発生確率や損失額からリスクを推定計量することが出来るとされる。

 リスクには大きく分けて、信用リスク(デフォルト・リスク)、市場リスク、オペレーショナル・リスクなどがある。

 ベンチャー企業への投資で問題になるのはデフォルト(債務不履行)リスク。文字通りカネ詰まりによる倒産である。

 財務データなどが公開されている上場企業などについては、信用リスクを総合的に評価する「格付け」機関が存在するが、よちよち歩きのベンチャー企業ではとてもそれは期待出来ない。

 個人がベンチャー企業に出資する場合は、その企業の経営者、製品などに惚れ込み、捨てたつもりで出資するのが理想的だ。

 最悪は出資金の全損。ただし仮に出資した企業が大成長を遂げた場合、出資金は大きく化ける。これが個人的リスク・マネーの典型だ。

 市場リスクは、株式、商品、金利、オプション価格などの市場価値の変動によって発生する損失リスクで、これら変動は統計学的な正規分布すると仮定し(これは大問題だが、ここで触れる頁数はない)将来確率の標準偏差「ボラティリティ」でリスクを測るなどの手法が用いられているが、前提となる分布の形態に問題があるのでは話にならない。

 オペレーショナル・リスクはこれらに属さないリスクで、最近大きくクローズアップされているもの。利益を期待しない出資である点も上記2件と大きく異なっている。具体的に列挙すると、IT時代を代表するシステム障害、アウトソーシング不調、訴訟、内部不正行為(インサイダー取引や横領など)、外部不正行為(ハッカーの攻撃など)、取引に関する不正(不良品、非認可製品の販売、顧客情報の悪用など)、雇用と職場に関するリスク(ストなど)である。このオペレーショナル・リスクは、企業努力によって事前に減らす努力を実施できる点も前記リスクと異なっている。

 最近リスク管理システム(RMS)なる言葉が語られている。どんな事態の時に、どんなリスクが発生するかを予測するリナリオ分析や、最悪の事態が生じたときのリスクを予め計量化しておくストレス・テストなど有名だが、その前の大前提として、どのようなリスクがあり得るかを把握し、それは、計量的に管理・対応が必要か、認識しておくだけでいいのか、それとも無視していいものかとはっきり区別しておく必要がある。

 金融機関などは、取引の売却、ヘッジ取引、保険、投資の分散化などによってリスクを制御しようとするが、個人のしかもベンチャー投資にはこのような考えは適用できない。個人にとってリスク・マネーとは、還ってこないカネと初めから肚に決めることが重要である。米国と日本の違いもここにある。

(多摩大学名誉教授 那野比古)