第122回「巨大市場を目指せ‐パワーアシストなど介助ロボット・ベンチャーに期待」
Thursday October 18th, 2012
3.11災害、特に福島第1原発事故に際して、日本のお家芸といわれたロボットはさぞかし素晴らしい活躍をみせただろうか。外国人にこう聞かれると困ってします。いや、何も出来なかったとはあまりにも恥ずかしくて言えない。チェルノブイリ事故でも爆発で建造物の屋上などに飛散した超高レベルの放射線を発する黒鉛(原子炉の構成要素)の破片の整理などはロボットがやってのけた。地上では無人操作のブルドーザーが活躍した。いずれも高放射性環境下で、急ごしらえの制御装置のICが壊れ、長時間は活動出来なかったが、事故処理にロボットが投入され、役立った記録は残っている。では、日本ではどうだったのか?
最近のロボット技術の進歩には著しいものがあり、特に米国、イスラエルが目立つ。軍事技術に裏付けされた発展の成果で、とても日本などは及びもつかないレベルに達していると言わざるを得ない。
日本のロボット開発は、実用化を狙うというより、一部学者や研究者の興味趣向、いわば高価なおもちゃの領域を脱していないきらいがあった。
一般にロボット産業の特徴は、ハードは市販の部品、材料を組み合わせて作り上げることが可能であり、今では汎用的な動作については様々なソフトウェアも入手することが出来る。敷居は低い。したがって様々な業種からの参入が可能となっている。特に、今後の高齢化社会と人手不足を見越しての介護ロボット、移動する支援ロボット、介助する側に求められるパワー・アシスト・ロボットなどは、巨大な市場になることが見込まれている。しかし目標とするロボットの開発、試作とそれを製品として完成させるのとでは次元が違う点は良く認識しておかなくてはならない。
製品は第一に安全でなければならず、故障は禁物。それでいて易操作性とフェール・セイフが求められる。メンテナンス性がよく、省エネで低コスト。人間の片腕として人間が馴染める製品に仕上がることが必要である。こうなってくると、敷居は低いとはいえ、製品化には、必要とする技術要素を持つ多くの関連企業が参画せざるを得ないこととなる。このような企業は一般にベンチャー企業が多く、ロボットの製品化への取り組みは、これを軸とした一大ベンチャー企業集団の形成を促すもとともなる。
特にパワー・アシスト・ツールの製品化は重要で今後高齢化で被介助者が増えるばかりでなく、介助をする側の高齢化が懸念されている。このような場合、パワー・アシスト・ツールを介助者が着装することによって、人を簡単に持ち上げ移動させたりすることが可能で、パワー・アシスト・ツールを介助される側に着けさせれば廃用筋の筋力を増大し自立力を向上させることが出来る。
体力のパワー・アップは今後の高齢化社会では至る所で不可欠なツールだ。これをロボットに含める見方もあるが、介助の分野では、自立走行多機能型のいわゆる本来のロボットと、人間が着装するパワー・アシスト・スーツなどわはっきり区別する必要がある。
これまでは自動車産業にみられる溶接ロボットに代表される単機能の産業ロボットが主役であったが、これまで述べた方向を本格化する事例が地方で出てきた。
神奈川県は去る9月、関連企業などを集めたさがみロボット産学特別協議会を開き、県内9市2町を対象とした地域活性化総合特区制に基づく特区指定を国に申請した。さがみロボット産業特区は、先に述べたまさに3つの方向性を実証する。
具体的には、災害時での捜索や救助を担う災害対応ロボットは厚木市を中心とする県北、介護、医療ロボットは厚木市など県央、高齢者の移動支援ロボットなどは平塚市など湘南を中心に製品開発と実証実験を行うという。
(多摩大学名誉教授 那野比古)