第113回「スワヒリ語「キーバ」(KIVA)が次世代の金融システムのキーワードに?」
Thursday August 23rd, 2012
本欄では第85回でソーシャル・ビジネスの火付け役グラミン銀行をマイクロファイナンスの創始者として、また第87回では新たな出資プラットフォーム「クラウド・ファウンディング」など、ここにきて新たに出現してきた出資・投資形態について報告してきた。マイクロファイナンスについては、超少額ベースの高利貸しにすぎないとの厳しい意味もあるが、信用のない女性の自立をベースとした運用成績は素晴らしく良好で貸し手・借り手ともウィン・ウィン関係にある点は拒ない。
一方、利息はいらないけれど出資はしたいという、従来の経済学の常識では信じられないような資金提供の形も現れようとしている。
スワヒリ語で「キーバ」(KIVA)は「絆」を意味する。このKIVAを名称とした新しい形のいわばマッチング・タイプのマイクロファイナンスがバングラデシュなどで顔を見せ始めた。別の見方をすれば、グラミン銀行が間接型のマイクロファイナンスであれば、KIVAは直接型マイクロファイナンスということもできる。
先進国の人達は発展途上国に役立つような投資をしたいと考えているのだが、どこに投資をすればよいかわからないという問題を抱えている。KIVAはこの出資要望と受け入れ側との間のマッチングを行うのである。ここで従来と全く異なる点は、出資者は利息は全く受け取らない。利息を受け取るのはKIVAで、これがKIVAの運営資金となっているのである。しかもリスクは出資者側が負う。一口150ドル程度が多いと言うが、それにしても極めて奇妙な金融方式がまかり通り始めたのにはびっくりさせられる。
ところが、これと似たような話が中国でも発生している。場所は上海の南、浙江省の温州市。ここに「民間貸借登記サービスセンター」なる聞きなれない民間金融機関が今年の春、創設された。ここも資金を貸したい一般市民と、借りたい中小企業との間のマッチングが行われている。
温州には「温州マネー」と呼ばれる輸出で稼いだ金がたまりに溜まっているという。推定邦貨にして10兆円弱というから、中途半端ではない。
一方、中国での銀行融資は、行政の介入や信用力などの問題で国有企業が主な対象となっており、昨年度からの景気後退は民間中小企業に深刻なダメージを与えている。そこで年利100%超といった信じられない闇金融が横行、中小企業の破たんが相次ぐようになった。温州はその代表的な街という。ちなみに本来の貸出金利の上限は市中法定金利の4倍、24%とされている。
この温州の貸借マッチング・センターはKIVAのような出資者は無利息ではない。先の紹介したKIVAのマイクロファイナンス方式とは異なっている。温州の場合は、市民のタンスに入っている金を引き出し、中小企業の救済に回そうというのが主旨で、本来は銀行のすべき役割をローン会社が果たす。ここでは2ヶ月間に約100件の成約をみたという。
最近は確かに出資という意味でのおカネの流れが変わってきている。顧客向けカスタムメイドのジーンズなどを3日でつくりますというシカゴのジーンズ専門ベンチャーはネット上で寄付者を募集したという。400人超の人達からまたたく間に5万ドル弱が集まった。このうちの4割は海外からの応募だったといい、ついでにジーンズ製品の予約も得られた。
古典的な金融機関に勤めている人が聞くと唖然とする話ばかり。しかし確かに流れは変わっている。スワヒリ語のKIVAは、次世代の金融システムを左右する重要なキーワードの一つ、出発点となる可能性がある。
(多摩大学名誉教授 那野比古)