第107回
「ITネットの旗手「クラウド・コンピューティング」に暗雲‐信頼性に懸念が現実に」
Thursday July 12th, 2012
去る6月20日、ITネットワーク利用高度化の動きに冷水を浴びせかける重大な事件が発生した。
クラウド・コンピューティング、データ・センター、情報処理外部委託など、自社内にデータ処理用のシステムやストレージを持たず、専門の施設に移管してネットワーク上で処理を委託するという形式が今後の動向として注目を浴びている。
自社でシステム管理するのに比べて、ハード、ソフトの各面にわたるバージョン・アップにいちいち自ら対応する必要はなく、保管データのセキュリティも専門学者が使うので安全。ネットワーク技術に精進する必要もない。コスト削減策の一環としても、クラウド・コンピューティングやデータ・センターに注目する企業は多い。
クラウド・コンピューティングというと、何やらむずかしい印象を受けるが、要はインターネットを利用してソフトウェアやデータが利用できる仕組みのことで、先にのべたようにソフトやデータの管理は不安になる。
かつて、サーバーやストレージなどインフラをインターネットを介して担保するPaaS(パース=プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、業務の処理から顧客管理まで主にアプリケーション処理を委託するSaaS(サーズ=ソフトウェア・アズ・ア・サービス)などと呼ばれるビジネスが発生したが、クラウド・コンピューティングではこれらを一体化した形でのサービスが提供されようとしている。
これは裏返すと、ユーザーにはクラウド・コンピューティング・システムの中味はブラック・ボックス化することを意味しており、何かこのシステムに障害が発生すると、ユーザー・サイドからはお手上げ、場合によっては事業の継続すら不可能になるといった事態の発生も予想される。
実はその懸念が今回現実のものとなった。
事件は2012年6月20日午後5時半頃起きた。ヤフーの子会社でレンタル・サーバー事業を行っているファーストサーバー社が行っているレンタル・サーバーの中から委託運用していたウェブ・サイトや電子メールのデータ、システム管理用IDパスワード、メールのID、管理顧客情報が消失してしまった。
被害を受けたのは同社のビズ、ビズ2などのサービスを利用していた5698社。これら以外のサービスの利用者訳4万5千社には影響はなかったという。
原因は保守点検用のソフトにバグがあったものとみられているが、今回の事故で極めて重大なのはバックアップ・データも消えてしまったこと。バックアップがとられていないと復元は全く不可能となる。
一般にバックアップ・サイトは災害などを回避するため遠隔地の外部サーバーに置く。同社もそのような説明をユーザーにしていたというが、実際は同一サーバー内の別のディスク上にバックアップをとっていたといい、バックアップ体制上でも大きな問題点があったことを露呈した。
クラウド・コンピューティングは、業種や国を超えて様々な企業が交信・データ処理し合うものであり、影響は極めて広い範囲に及ぶことが予想される。
総務省は電気通信事業法に基づく重大事故とみて調査することにしているというが、クラウド技術は新たなITネット時代を拓く切り札であるだけに原因の徹底調査と防御策の確立が望まれるところだ。
(多摩大学名誉教授 那野比古)