第105回「ベンチャー育成に総力 オバマ政権「JOBS法」‐雇用創出を狙う」
Thursday June 28th, 2012
米国ではベンチャー企業の育成がオバマ政権の最重要課題として取り上げられており、起業家を支援するための法基盤である「JOBS法」(ジャンプスタート・アワー・ビジネス・アクト)も4月5日の大統領署名によって本格発動した。
2001年に発生した不祥事「エンロン事件」をきっかけに導入されたSOX法などへの厳しい規制をベンチャー企業に対しては早くも一部大幅に緩和、ベンチャー企業の上場と企業拡大による雇用の創出に大きな期待をかけた。
具体的には、ベンチャー企業などへの資金調達力の向上を目指した「エクイティ・クラウド・ファウンディング」、上場を容易にするための「ミニIPO」、上場後のベンチャー企業の成長を支援する「ポストIPO長期緩和」、それに「私募の勧誘の一般化」である。
ネットワーク、いわゆるウェブ・ベースで資金を集めるやり方は、すでにクラウド・ファウンディングとして様々な面で利用されているが、ウェブ上で株式の取引を行うエクイティ・クラウド・ファウンディングは禁止されていた。
今回の新法は、100万ドルを上限に、株式によって多くの一般投資家よりネットワークを通じ簡単に資金を調達できるようにするというもので、ネットのサイト運用者は、証券業協会に登録するとともに、ファウンディング・ポータルとしても登録する必要がある。投資家を保護するための処置だが、投資の勧誘やアドバイスの提供は禁止されている。
すでにオバマ大統領の署名と同時に、エクイティ・クラウド・ファウンディング・サイト第1号として「サークルアップ」が活動を開始している。
上場時の規制を緩和して上場を容易にするというミニIPOは、IPOによる調達額の上限を5000万ドル(従来は500万ドル)とし、それ以下の場合IPOの際に3年間必要な監査済財務諸表の提出が2年分で済ませられる。またIPO前に投資家と接触し、その意見を聞くことも可能というもの。
ポストIPOについては、内部統制ルールの一部適用を最長5年免除する。通常は2年間だが、売上高が10億ドル以下、公開日から5年以内、あるいは時価総額が7億ドル以下といったベンチャー企業への優遇策となる。
またこれまで私募による資金調達は証券法により一般投資家向けの宣伝や勧誘は禁止されていた。周りの特定の人からしか私募はできなかったが、JOBS法ではこの壁が打ち破られ、広告が可能になる。ただエクイティ・クラウド・ファウンディング上の私募宣伝は許されていない。
ところで米国では2008年リーマン・ショック以降の経済状況の悪化は現在でも8%台という大きな失業率を生み出している。オバマ政権はこの大きな失業率の解消に躍起になっており、その救い手として期待されているのがベンチャー企業の拡大とそれによる雇用の創出である。
全米780万社のうち740万社は従業員100人以下の小企業だが、雇用者数は大企業の4倍以上。
オバマ政権は、経済の拡大と雇用の創出のカギを握るものとしてベンチャー育成に舵を切ったが、それと比べてわが国のベンチャー関連施策の惨状はいかがなものか。
(多摩大学名誉教授 那野比古)