第84回「災害からニューBiz④‐新たな切り札『ソーシャル・ビジネス』」

 福島県から新潟県に避難している被災者向けにフリーペーパー『FLIP』が発刊され、自治体などの他に新たな被災者生活関連情報の提供手段として注目されている。

 当面の配布部数は5千部だが、広告によって全ての経費はまかなえる目途がついたといい、被災者の自立へ向けてのプロジェクトの紹介や、今後の他地域との協力ネットワーク作りで注目されている。

 医療難民と化した仮設住宅の住民たち、仮設でなくとも災害直後には大量に入っていた医療支援者も数ヵ月後には続々撤退、自宅住まいの人達も健康上の問題が大きくクローズアップされてきた。被災地には高齢者が多く、ほとんどが慢性疾患を持ち、しかも長い避難生活とあって生活の質(QOL)は極めて悪化している。

 このような医療難民に手をさしのべようというのが「祐ホームクリニック石巻」。石巻市を中心に医師が自宅や仮設住宅を訪問診療する。24時間の診療体制で、看護師や事務員はすべて地元で採用した。東京の祐ホームクリニックや千葉県の亀田総合病院などのバックアップを得ているが、さらには富士通と組み、在宅医療クラウド・システムの開発にも取り組むと意欲を燃やす。

 一方では、災害によって発生した移動難民、交通弱者への対応を進めているところもある。「㈱コミュニティタクシー」は、被災地の気仙沼観光タクシー、南三陸観光バスと提携し、オンデマンド方式のバス、タクシーの運行に動き出した。

 公共交通機関の不便さは仮設住宅などへの移転により更に増大、高齢化と相まって、買い物や診療、就業など日常生活の維持に重大な障害となっている。またこの交通の不便は各地に分散、避難しているコミュニティ住民間の疎通を分断、住民の孤立感を深めるなど重大な社会上の問題を生み出している。

 「タクシーでみんなの足に、便利屋でみんなの手に」がコンセプトのこのオンデマンド方式の移動サービスは、これらの問題点の解消に役立つと期待されているのだ。

 これまで3例を紹介したが、このような新たな形態のビジネスは『ソーシャル・ビジネス』あるいは『コミュニティ・ビジネス』と呼ばれている。表面化する様々な社会的課題を「ビジネスの手法を活用し、住民、企業、NPOなどと協力しながら解決していく」のが特徴である。ひと口でいえば、従来の行政におんぶだっこはサヨウナラ、地域発のビジネスで肩代わりしようというもので、行政コストの削減に大きく貢献するばかりでなく、新しい企業の創出や新たな雇用の創出にも役立つ。

 新たな流れソーシャル・ビジネスについては今後紹介していくが、世界的にはバングラデシュのグラミン銀行(後ほど解説、設立者のモハメド・ユヌス氏は2006年ノーベル平和賞受賞)の大成功が巨大な源流となった。

 ソーシャル・ビジネスは、過疎の村の活性化、貧困対策、子育てや介護対策、環境問題対応、雇用・仕事の創出、医療などの分野で世界中で活用される手法として定着しつつある。

 資金だって集まる。「ミュージックセキュリティー㈱」は、被災企業と個人的資本を結ぶ少額投資応援ファンド「セキュリティ」を立ち上げた。1口1万500円で、500円が手数料。残りの半分が出資金で、残り半分は寄付金となる。昨年末現在で5億円以上が集まり、出資した個人は1万5千人に上ったという。

(多摩大学名誉教授 那野比古)