第83回
「災害からニューBiz③‐除染に活かそう-手持ち・身の回りの技術で新ビジネス」

 除染などというと、やゝもすれば新技術の開発に目が行くが、自社がすでに持つ技術を転用するという新しい市場開拓がある点も忘れてはならない。

 除染に投入される費用は、モデル事業で1平方メートル当たり1200円程度といわれ、福島県飯館村だけでも3000億円、福島県全体では数兆円といわれている。

 現在、役場機能を郡山市に移転させている福島県川内村は、3月末に帰村宣言を行い、役場、小・中学校、保育園、診療所を2012年4月から村で再開するとの力強い方針を打ち出した。3000人いた町民のほとんどは県外に避難。昨年9月の緊急時避難準備区域の解除があっても帰村したのはたった200人弱。村では今後除染作業に1000人ばかりを臨時に雇い入れて村内の除染を本格化、村民の帰村を促すほか、小売店の開店支援や農業関連工場の誘致を進めて雇用の場の増大も狙うという。

 今後、このような旧住地への帰還の動きはさらに拡大するものとみられ、それに伴い除染作業は一段と活発化するとみられる。

 効率的な除染に、自社がもつ既存技術や周辺技術を応用して成果をあげた事例も相次いでいる。

 電着塗料で知られる中堅塗料メーカーの神東塗料(尼崎市)は、塗料を「塗る、干かす、はがす」の工程によって、壁などに付着している放射性物質の90%を除去できるというまったく新しい方式を提唱している。この技術は、防錆防食塗料で世界最大手の米カーボライン社が開発したものを国内独占販売するもので、これまで難しかった屋内壁面の除染などが可能となる。カーボライン社は、この塗料による除染をスリーマイル島事故を契機に開発、効果を実証済みという。

 道路標識工事のキクテック(名古屋市)は、道路上につけた標識ラインを消すために使っている超高圧噴射技術をブロック敷きのインターロッッキング舗装路面のブロック間の溝に溜まる放射性物質沈着土砂の排除に転用した。

 道路上の標識ラインを消すには、超高圧水噴射ポンプで水を吹き付けてラインの塗料や泥などを浮かせ、それを別のポンプで吸い取る。噴射・吸水と2台のポンプが必要となるが、はがし取った汚染土砂を周りに撒き散らさない利点がある。

 地表1センチでの空間線量は、従来の高圧洗浄機では60~70%しか下げることができなかったが、同社のシステムを使うと20%程度にまで一気に除去することができたといい、アスファルト舗装などにも適用できるという。福島市内での公開実験では、除染前の0.5ミリシーベルトが0.1ミリシーベルトへと低下した。

 日本原子力研究開発機構は、食品の増粘・安定剤「ポリイオン」を使って、土壌中の放射性物質の90%除去に成功した。

 福島県飯館村の役5平方メートルの畑にポリイオンを散布、固化した土壌を2~5センチの深さにはぎ取ったところ、放射性物質のセシウムを最大95%除去できたという。

 ポリイオンとは水に溶けると電荷をもつ高分子材で、プラスとマイナスのポリイオン水溶液を混合するとゲル状となり、これがセシウムなどを含んだ土壌の粒子を包み込み固化する。乾燥に2~3日かかるのが難点だが、材料は大量に安価に入手できる。

 福島県広野町が注目したクレーベスト社の技術は、汚染土に高分子材と生石灰を加えて攪拌、土壌の粒の表面にコーティングしてしまうという方法。1キログラム8000ベクレルの土壌も汚染も100分の1以下になるといい、1平方メートル当たり1000円程度と費用が安いのも特徴という。

(多摩大学名誉教授 那野比古)