第69回「内部被曝⑦ 除染薬投与は年間20ミリシーベルト以上?‐懸念されるいんちきサプリメントの急増」
Friday October 7th, 2011
原発事故の初期などに大量に放出される半減期の短いヨウ素131に関しては、甲状腺に選択的に取り込まれるのをブロックするため、あらかじめ甲状腺を一般のヨウ素で飽和状態にしておくという作戦がとられる。そのための薬剤が「ヨウ化カリウム」である。「安定ヨウ素剤」とも呼ばれる。
ヨウ化カリウムは事故後速やかに投与することが必要で、原発防災のためのヨウ化カリウムの服用量が決められている。
妊婦:100ミリグラム、生後1か月未満の新生児:16.3グラム、生後1か月以上3歳未満:32.5ミリグラム、3歳以上13歳未満:50ミリグラム、13歳以上40歳未満:100ミリグラム、40歳以上は服用の必要なしとされる。
ストロンチウム90に関しては、通常のストロンチウム(安定ストロンチウム)を多量に摂取させてストロンチウム90を希釈(濃度を薄める)するという作戦もある。
「ストロンチウム乳酸塩」とか「ストロンチウムブドウ酸塩」がこの目的に用いられる。
ストロンチウム乳酸塩は経口投与で1日500~1500ミリグラムを数日間投与、尿からの放射性ストロンチウムの排出が2~3倍多くなるとされる。
また骨に沈着したストロンチウム90の除染には「甲状腺上皮小体抽出液」(PTE)の利用も考えられている。PTEで血液中のカルシウムの量が増えるが、これは骨から出てきたカルシウム。この原理で、骨に沈着したストロンチウム90をはがし取り、尿へと排出させようというもの。ただ、骨粗鬆症になる危険性が指摘されている。
ストロンチウムについては、かつて経口あるいは静注でカルシウム剤を大量に与えるという方法をとられたこともある。
様々な科学的に効果が実証されている除染薬を眺めてきたが、このような 薬にはそれなりの副作用も覚悟しなければならない。
除染薬の使用は副作用とのトレードオフで決められる。
早期に投与が必要なヨウ化カリウムなどは別として、プルシアンブルーや対プルトニウムのEDTAなど投与開始の目途としては、「年間20ミリシーベルトを超える被曝線量が予測された場合」などが論じられているが、この投与開始線量について特別な意味があるわけではない。
一方、第67回で述べたように、巷間ではさまざまな食物などがいわゆる除染物質として口コミ情報的に出回っている。だが、除染効果が科学的に立証されているものは殆んどない点に注意を要する。
怖いのは、被曝域などの住民を対象として、効果のないいかがわしいサプリメント、補助食品などを除染剤などと称して高価で売り付けるビジネスが現れることである。かつてのソ連でも、このようなまがいものビジネスが横行したようだ。
パニック・ビジネスとも呼ばれるこの商法は、住民が放射線の恐怖にかられ、流言飛語が飛び交う中で冷静な思考力を失い、パニックで“空っぽ”となった心につけ込む。何でも高価で飛ぶように売れるという。
わが国の東電原発事故では、これから10年のオーダーで残存するセシウム137などへの対応を口実として、「体内の放射性物質が浄化される」とか、「摂取しても無毒化される」とか、「何か異常が出ても最小限に抑える」など“効能”を述べて、科学的に何ら目的の効力が証明されていないものをサプリメントとか補助食品とかの形で売り込むケースが考えられる。
これらサプリメント、補助食品と称するものは、健康に害がある代物ではないにしても、まさに「毒にも薬にもならない」商品に大枚をはたかされる。注意が必要である。
(多摩大学名誉教授 那野比古)