第66回
「内部被曝④ 環境からの放射性物質の除染‐「ファイト」・「バイオ」レメディエーション」

 前回「チチタケ」(チタケともいう)のセシウム137汚染について触れたが、キノコは特異的に放射性物質を濃縮する点で注意を要する。

 キノコは通常の植物のように葉緑体をもっていないために、自ら栄養分を作り出すことができない。ということは他の植物体などから栄養分を吸い取る以外しかない。

 その方法によってキノコは2種類に分かれる。「菌根性」と「腐生性」である。

 菌根性のキノコは、他の植物の根などに共生、土から頭をのぞかせるタイプのもので、前述チチタケやマツタケ、ホンシメジなどが代表的。

 一方腐生性のキノコは、シイタケやエノキダケなど枯木や落ち葉などから栄養分を得て生長する。

 余談だがチチタケは筆者も採取したことがある。橙褐色のキノコで傘の表面は粘り気がなく、まるでビロードを触わるかのような触感がある。傷つけると多量の白い乳体が流れ出し、空気に触れると褐色に変化する。慣れない人には奇異に映るキノコだが、全国各地では食用として珍重されている。

 原発事故などで大気中に放出された放射性物は、フォールアウトして葉や土に付着する一方、枯れ落ちた葉は土と一体となって腐葉土となり、放射性物質の二次的な溜まり場を形成する。この傾向は吹き溜まりや溝状の凹地などで著しく、局所ホットスポットとでもいうべき高放射線量の場ができる。

 腐生性のキノコはこのような場所を好んで成長するがゆえに、多くの放射性物質を吸収するとみられていた。しかし、菌根性のキノコにも著しい蓄積が見られた点に驚きをかくさない人もいる。周辺の土壌から、特異的にセシウムなどの放射性物を取り込む能力を備えているとみられる。

 しかしこのような性質は、土壌除染という意味から注目する専門家もいる。

 セシウム汚染の浄化でよく引き合いに出されるのはヒマワリ。チェルノブイリ事故でも活用されたが、ヒマワリのように植物体によって除染を行う方式を「ファイト・レメディエーション」と呼ぶ。ただしわが国での実験ではヒマワリの除染能力は疑われている。

 一方、細菌などの微生物などを利用した除染は「バイオ・レメディエーション」と呼ばれる。

 ファイト・レメディエーションで有名なのは、海水で冠水した田畑から塩分を取り除くのにヒマワリを含む様々な植物の利用。菌根性のキノコを除染に利用する場合は、ファイト・レメディエーションに属する。

 土壌の油汚染に対して、菌根性の微生物を使い、油分を分解、除染する技術はすでに実用の域に達しており、清水建設などでは、油分汚染土壌に強力な力を発揮する複数の植物を選定、事業化を進めているという。

 油分浄化については、微生物を使ったバイオ・レメディエーションでも大阪のベンチャー企業、アイアイビーが奥村組と共同で、3種類の微生物利用した方式が実用化寸前にある。

 このような考え方を放射性汚染物質の除染・環境浄化に適用する。

 バイオ・レメディエーションについては、使用する微生物が生態系に悪い影響を及ぼす懸念があるため、経産省と環境省による「微生物によるバイオ・レメディエーション利用指針」の適合基準を得る必要がある。

 放射性物質の除染については、さらに大きな問題がある。それは除染に使用した植物や微生物、キノコが結果的には放射性廃棄物になる点であり、その管理や処理に責任が生ずる。勝手に棄てるわけにはいかない。放射性廃棄物に対する各種規制をクリアする必要がある。

 ある量以上のセシウムをため込んだキノコや微生物は、もはや単なるキノコ、微生物ではない。放射性危険物として取り扱われなければならないのである。

(多摩大学名誉教授 那野比古)