第44回
「“ガラパゴス原発国”日本‐再循環ポンプなど福島第一原発事故での基本的な疑問点」

 原発事故はひと口に「規定外」といっても、その結果がもたらす被害がケタ違いに巨大なものとなることは誰でも想定できることで、想定外はあってはならないという安全思想が欠けている。

①遅きに失した外部電源多重確保、だが今後に必要。
 
 今回の東電福島第一原発事故の本質は、本欄でいち早く指摘した如く外部電源の喪失。いまさらながらこの多重化に手を打つというのは遅きに失した感があるが、今後のリスクを考えると多重確保は絶対に必要。というのは、第2の地震・津波災害の恐れがあるからだ。最大余震のエネルギーを本震の30分の1としてもその差はマグニチュード(M)1に相当する。

 本震がM9と超巨大だっただけに、M8の規模の余震がおこる危険性がある。今回の震源域には大きな第2種空白域(ドーナツ型空白域ともいわれ、周辺での活発な地震活動に対して中央部はおだやか)と見られるものが存在しており不気味。外部電源多重化は、巨大余震による10m前後の津波再来に対して役立つ。

②事故対応についてなぜ早い段階で米、仏に支援を依頼しなかったのか。

 米国ではテロリストによるロケット弾の攻撃(実際にかつて仏のスーパーフェニックス炉であった)や、空爆などにも対応できるよう多様な対応策が編み出され、極秘裏の訓練も実施されている。むろん内容は公表されていない。テロ側に手の内をさらすことになるからだ。

 米国の原発では、狙われやすい外部電源については、引き込む電源の多重化ばかりでなく、非常用ディーゼル電源系についても防曝・防水が施されており、地震・津波にも対応できる。9.11事件以降特に厳重な見直しが行われている。さらには原子力潜水艦の原子炉の保守・解体についても豊富な経験を培っている。

 仏は自国のエネルギーの80%を原子力が担う原発大国で、原子炉定常運転中にも制御棒によって出力を調整するという世界にも類のない運転技術を確立している。

 仏EDF社やアルバ社は世界で58基の原発の運用を請負い、10基を廃炉にした豊富な経験を持つばかりでなく、使用済み核燃料の再処理でも工場運転の実績をもっており、“ガラパゴス原発技術国”日本と比べると原子力の安全性に係るノウハウ蓄積は比較にならない。

③東日本大震災直後、福島第一原発1号機の格納容器の圧力が異常に高くなった際、なぜ蒸気逃がし弁を開く「ベント」がいち早く行われなかったのか。

 重い腰でベントした翌日、1号機は水素爆発。これが今回の事故の序章となった。

④沸騰水型原子炉(BWR)で、これまで構造的に弱点とされてきた「再循環ポンプ」は今回の事故でどうなっているのだろうか。

 炉心を収容する圧力容器内の水をスムースに循環させるためのポンプ(再循環ポンプ)が圧力容器下部に外付けされている。

 この取り付け部分の破損は圧力容器内の冷却水を失う冷却水喪失(LOCA)を引き起こすものとして危険視されていた。新型のBWR(ABWR)ではこのポンプは圧力容器内に収容されリスクは少なくなっているのだが、福島第一原発の1~4号機はわが国原発黎明期に建設された旧型(1号機GE、2号機GEと東芝、3号機東芝、4号機日立)で、この弱点についてはひと言も言及されていない。

⑤燃料棒の破壊については、さまざまな事故・故障に対応した「燃料エンタルピー」(いわば崩壊熱による燃料棒の発熱)に関する「コード」(設計・シュミレーション・プログラム)を各種所有しているはずなのだが、これが有効に活用されているのだろうか。

 その場しのぎ、行き当たりばったりの処置に明け暮れている印象は拭えない。可哀そうなくらい原子炉を痛めつけている。

 原発と同じモックアップを用意し、上記のシュミレーション結果に従って破損個所を推定、対応策を的確に立てていくというのが自称“技術大国”にふさわしい処理方法のはず。修理に携わる作業員に、被曝量を計算した上での作業個所と滞在時間を指示し、モックアップでリハーサルののち作業に突入するというのが正当なやり方ではないのだろうか。

(多摩大学名誉教授 那野比古)