第29回「“されどメッキ”2Xから1Xへ。微小化する銅配線の主役」

 格子状の格子点に人が立っているのだがこの人たちはかなりぐらぐら動き回っている。あなたがこのような状態の中を、人にぶつからずに真っ直ぐ突っ走れる距離はどのくらいだろうか。人にぶつかると通り抜けるスピードは当然遅くなるし、この集団から別の集団へと移る際には、境界ではじき飛ばされる散乱によってスピードは遅くなる。このような状態において、人にぶつからない距離を最も長くするにはどうしたらよいか。いま半導体産業が直面している銅メッキの問題である。

 今年11月、千葉・幕張で開かれた「セミコン・ジャパン2010」では、LSI上の線幅が20ナノメートル台(2Xナノ)から次世代10ナノメートル台(1Xナノ)への進化が大きくクローズアップされた。

 現在の最先端の半導体製品はやっと2Xナノの世界に突入したところだが、業界ではすでに次世代の1Xナノの世界が議論されているのである。

 現在のLSIでは、LSI上の素子をつなぐ配線には電導効率が高い銅が一般的に使用されている。いわゆる銅配線で、その幅は高集積化微細化に伴い、30ナノメートル台からいま20ナノメートル台に移ろうとしている。ところがこの微細化に立ちはだかる大きな壁がみえてきた。銅配線の幅を50ナノメートル以下にするに従って抵抗が増大してくるという現象である。これはLSIの処理速度が下がることを意味する。

 冒頭の話で、格子点に立つぐらつく人を銅原子、突っ走る人を電子とおきかえて考えなければならない話が、銅配線の微細化の問題で顔をのぞかせてきたのだ。

 電子が真っ直ぐ突っ走れる距離は平均自由行程と呼ばれる。銅の結晶の中では約40ナノメートルである。この位の距離なら、電子は銅原子にぶつかることなく全速力で突っ走ることができる。つまり銅の結晶の大きさが50ナノメートル程度より大きければ、電子は抵抗なく走れ、電導率は高い。ところが、銅の結晶の大きさが30ナノ、20ナノと小さくなると、ひとつの結晶内で電子がフルスピードで走行できないばかりか、結晶と結晶の境界をまたぐケースがなくなり、散乱によって大きくスピードが落ちる。

 実はこの銅配線は、メッキによって作られている。そこでクローズアップされてきたのが、銅配線をなるべく大きな均一な銅結晶で作成するという課題である。古典的なメッキ技術の高度化が大きなテーマとなっているのである。

 いま注目されているのは超高純度メッキ技術。正極に使うメッキ用の銅の純度は99の小数点以下に9が7個つながり、メッキ液に使う硫酸銅の純度も同じく9が4個つながるという超高純度なものだ。現在使われている銅配線メッキの純度よりそれぞれ5桁、3桁高くなるという画期的な材料を用いたメッキ技術である。特に硫酸銅の高純度化は必須とみられている。

 伝統的な電気メッキはすでに1800年代初めからみられた技術。それがいま大きな脚光を浴びている。たかがメッキ、されどメッキ。メッキ専門の中小企業の中には、この動きを先取りして大きな飛躍をもくろむ所も少なくない。

(多摩大学名誉教授 那野比古)