第24回「ベンチャーに追い風―新たなソフト市場台頭への期待」

 ソフトウェア産業を取り巻く環境がここにきて激変している。これまでソフトウェアなどとは余り関連がないと思われていた自動車が、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)へと変身、いまや“ソフトウェアの塊”に化そうとしている。ソフトウェアの良し悪しが車の性能を決める時代といっても過言ではない。

 それどころかこれらの車は、「スマート・グリッド」という巨大な電気エネルギー流通ネットワークに組み込まれて、確率的?なエネルギー不足や周波的変動解消の切り札として大活躍する動きすらみせている。スマート・グリッドがらみでは、太陽光発電や太陽熱発電、風力発電、地熱発電などいわゆる非在来的な発電を含めて、既存の火力発電所の緊急稼働など更なる巨大な制御システムが必要となり、新たに生ずるソフトウェア需要は計り知れないというのが現状である。

 この話には続きがある。各需要家、家庭に「スマート・メーター」なるインテリジェント電力計を設置し、需要側のエネルギー消費を制御することによって、スマート・グリッド全体の効率化、低コスト化を図るといういわばこれまでのエネルギー社会システムを一変する動きが顕在化している。

 一方、このような巨大な制御システムのベースとなるコンピューターや各種ミドル、アプリケーション・ソフトに関しては、このグリッドに関与するすべての企業などにそれぞれ設置するというのではいかにも効率が悪いし不経済。ソフトウェアのバージョン・アップに対応すること自体大変な負担になる。バージョン・アップやパッチ当てなどの作業は、巨大なネットワーク・システムの安全性を守る上で極めて重要な作業である。ネットワークにひとつでも脆弱性があると、悪意の仕掛人はそこを突き、ネットワーク全体の安全性が脅かされることになりかねない。結果はエネルギーをベースとした社会経済の大混乱である。

 このネットワークを効率的に安全に作動させる解決策のひとつとして、「クラウド・コンピューティング」なる動きもある。ネットワークの参加者は個々にコンピューターやアプリケーション・ソフトなどを用意しなくても、通信ネットワークを通じて必要な資源を自由に最も適した形で利用することができる。クラウド・コンピューティング・サービスの提供元のシステム全体は“雲の彼方”にあるかの如くユーザーには見えないが、通信ネットワークがこの見えざるシステムとユーザーとの仲立ちをする。

 コンピューター世界はいまや音を立ててまったく新しい分野に突入しようとしている。この分野での新しいベンチャー企業の胎動が期待されるわけである。

 ただ注意すべきは、外国勢にこの巨大ネットワークに関する標準化、安全基準などボトル・ネックを押さえようとする動きがある点だ。開発にはこれらの動向に十分留意するとともに、標準化案などを日本から発信することも必要であろう。

(多摩大学名誉教授 那野比古)