第20回「老舗から学べ!粉飾ベンチャー」
Tuesday August 17th, 2010
最近、新興市場に上場を果たしたベンチャー企業の中には目を疑う不正な経理操作が平然と意図的に行われ、“これが企業?”と唖然とさせられるケースが少なくない。上場前に提出した有価証券届出書にすら粉飾計上した売上高の数字が並ぶ。海外への莫大な架空売上げ、循環取引き、大企業とのねつ造取引き、見せかけ在庫など会計士の厳しい監査の目をもごまかす新手の“粉飾決算のデパート”の感すらある。
上場してわずか半年で退場を余儀なくされる企業に証券取引等監視委員会の強制調査と刑事告発が追う。上場の際の主幹事会社の責任を追及する声は粉飾企業の手口の新奇さにかき消されてしまう始末だ。このような暴挙に出られるのも、設立間もないベンチャー企業などでは、創業者などが株式の大半を握り、企業を私物化していることによる。
ところで最近、寺社など貴重な文化財を地震から護るために建築物の基礎と地盤との間に高圧空気を送り込み建物を最大2㎝浮かせるというハイテク手法を開発した企業がある。大阪・天王寺区にある「金剛組」だ。
実はこの金剛組は西暦578年創業、現存する世界最古の企業体である。四天王寺建立のため聖徳太子によって百済から招へいされた3人の宮大工の1人金剛重光によって設立された。法隆寺の創建にも携わり、以後四天王寺のお抱え大工を務める。現在の棟梁は39代目。経営の悪化した金剛組を救った37代目は“なにわの女棟梁”として有名だ。
石川県の粟津温泉には、世界で最も歴史の古いホテルとしてギネスブックにも認定された旅館「法師」がある。奈良時代718年の創業で現在は46代目という。フランス・パリに本部を置く「エノキアン協会」(Les Henokians)では、我が国から登録された5社の中の1社として知られている。法師の他には虎屋(創業1526年)、月桂冠(同1637年)、岡谷鋼機(同1669年)、赤福(同1707年)が“日の丸”エノキアン・メンバーだ。
エノキアン協会は、いわゆる老舗の世界的な団体として1981年に設立され、現在加盟社数はイタリア、フランスを中心に伝統産業を守る40社。音頭をとったのは、我が国では軍用拳銃で知られるイタリアのベレッタ社(創立1526年)。200年以上の歴史をもち、創業者の子孫が企業のオーナーか筆頭株主で、今でも経営にかかわり、経営が健全であることが参加の条件。伝統こそ活力のモットーを産業界に示すことが目的である。
前述金剛組は1400年の歴史を持ちながら2005年、経営再建のため、高松建設(現・高松コンストラクショングループ)の傘下入りで、金剛家による経営に幕が下ろされたのは残念なことである。
ベンチャー企業のアンチテーゼでもある老舗企業。これらを貫いている精神は、偽りのない誠実な経営、三よし(“売り手よし、買い手よし、世間よし”)現代の言葉でいえばステーク・ホルダーの重視、カネ亡者を否定し身の丈に合った成長―などである。
冒頭に述べた“粉飾ベンチャー”は爪の垢でも煎じて飲むべきであろう。
(多摩大学名誉教授 那野比古)