第14回「VEC『2009年度ベンチャービジネスに関する年次報告』の周辺を眺める」
Monday March 29th, 2010
VECがこのほどまとめた『2009年度ベンチャービジネスに関する年次報告』(2010.1)によると、2009年の日本での新興市場でのIPO数はわずか19社にとどまったという。
新興市場は上場件数の減少もさることながら、市場での売買が細り、1ヶ月間に一度も取引のない銘柄も多く、投資家の魅力を失っていることも大きな問題である。流通株が非常に少ない上、公開時の高値づかみで売るに売れなくなった投資家も少なくない。公開基準ギリギリの浮動株しか放出せず、創業者一族などが大部分を押さえている点にも問題がある。今年秋、ジャスダックと大証ヘラクレスが合併を機に浮動株に対する時価総額規制に乗り出すのは新興市場活性化にひとつの契機を提供するものだ。
新興市場についてはそれ以前の構造的な問題として、投資家の不信を買っているのは、なりふり構わず上場維持に腐心する“ゾンビ企業”の存在がある。それどころか、市場を独自の資金調達の道具と間違えている企業もある。例えば巡環取引(グルグル回し)。金融機関等に信用を失った企業が、2~3カ月の短期のファイナンスとして巡環取引を利用する。戻ってきた商品への累積マージンは金利と割り切ってしまうのである。この巡環の輪に参加した企業はそれぞれ架空の売上増と利益を享受する。株主の利益を無視した無謀な第三者割当増資や新株予約権発行などで希薄化を平然と行う企業もある。
その結果が上場廃止強制退去だ。上場寿命が3年以下などという事例も散見される。退去事由を見ると、有価証券報告書提出遅延、同虚偽記載、監査意見不表明、不当な合併、時価総額不足など、本来の経営の結果で生ずる債務超過や破産などではなく、コーポレートガバナンスやコンプライアンスに係る事例が多い。
上記年次報告の周辺を眺めてみた。新興市場に投資家がリスクマネーを投入できる市場基盤の確立がいま求められているようである。
(多摩大学名誉教授 那野比古)