第11回「2009年を顧みる-信頼こそ企業の命-」

 今年のIPOは19社と異例の低い水準で終わった。新規上場の株価も初値が公募価格を割り込むものも少なくなかった。新興株式市場も多くが低迷。初値よりははるかに低い価格で取り引きされている株式が多いばかりではなく、市場から退出を余儀なくされた企業も少なくなかった。

 このような新興市場の低空飛行の原因を不況のせいにする話が多いようだが、抜本的な問題は投資家の新興市場離れにあることを忘れてはならない。ひと言でいえば、企業体の形をなしていないような事件が相次いで明るみに出て、投資家の信頼を大きく損ねている。コンプライアンスの欠除には肝を冷やすような事例も多い。

 例えば巡還取引。いわゆる“ぐるぐる回し”で資金調達や架空の売り上げ増を図るなどはとんでもない粉飾操作。業績が悪く金融機関に相手にされなくなった企業がぐるぐる回しをスタート。2、3ヶ月後最終的に自社に舞い戻って来た伝票上だけの商品を高値で買い取る。その際発生する差額分は金利と考え、当面の短期資金の新たな調達手段と考える企業が現れている。この取引はトランプでいう“ババ抜き”。ババを掴んだ(不正取引が発覚した)企業が不幸で、参加社の多くがそれなりにメリットを得ている。しかも、ぐるぐるが何回か回転するとスタート企業すら分からなくなってしまうという不明確さが、行き詰った企業には魅力的に映る。それどころか上場時の売上げの多くがぐるぐる回しと疑われるような企業すら出現していた。そのほか、増資を繰り返す、上場にしがみつくための法廷闘争、さらには取引き金融機関別の財務諸表の作成に至るまで、挙げると限りないほどの“怪しげな行為”が続出している。

 投資家を再び新興市場に戻すためには、何よりも企業としてのコンプライアンスを確立することが重要である。小さなベンチャー企業には“何でもあり”というのは答えにはならない。起業家、経営者の徹底したコンプライアンス教育が求められる。信頼こそ企業の命であり、“ウリ”であることを忘れてはならない。

(多摩大学名誉教授 那野比古)