第9回「異業種の生産現物を積極見学」
Friday October 30th, 2009
ベンチャー企業の販路開拓は大変だといわれる。ある画期的な技術を開発しても、その用途が分からないケースが多い。有名な例が、形状記憶合金。戦斗機のパイプ継手部分に一部実用化されたものの、その後が続かない。ブラジャーにも導入されたが、ワイヤーの刺傷事故が起きてこれもストップ。まだ、飛躍できているとはいえない。
テトラパックにみられる紙容器は、牛乳など液状製品の流通を一変させた。このような紙容器には表面に極薄の高分子膜が張り付けてある。細菌の侵入などを防ぐためだ。ところが、この薄膜にも問題点があった。ピンホールの存在である。顕微鏡的な孔も命取りになる。そこから、細菌などが入り込み、液体製品を劣化させる危険性がある。
このラミネートする薄膜。大量流れ加工する中で、どこに小さなピンホールがあるかを見つけ出すのは極めて難しい。商品の賞味期間を短縮するしか手がない。ピンホール検出の技術を知らないからである。
一方、ベンチャー企業のS社は、静電気の測定を得意に創業した。実は、どんな小さなピンホールであっても、その周辺の静電位は変化し、乱れが生ずることを見付け出していた。
こう述べると結果はお判りであろう。S社の技術者が紙容器製造会社の友人を訪ねた時のことだ。「実はピンホールに頭を悩ませている」「それなら、うちの技術を試してみたら」話はトントン拍子に進む。むろん実用化に至るまでには苦難が待ち構えていたのだが、2社による共同開発がそれを見事クリアした。
ある業種で仕方がないとあきらめていた問題点を異業種がスマートに解決する。このような例はさまざまな局面で存在しているのではないだろうか。
(多摩大学名誉教授 那野比古)