第6回「逆手に取るビジネスを考えよう」

 地方都市には、新たな市場を掘り起こすための芽がいっぱい転がっている。そのベースになるのが、高速ブロードバンド回線の普及だ。

 ある自治体が保有する天文台。すばらしい高性能反射望遠鏡が取り付けられているのだが、現在ではその維持費がこの自治体のお荷物。だが、この施設の活かし方は本当にないのだろうか。

 かつて、シューメーカー・レビー彗星が木星に衝突するという天文史上観測できる極めて稀なイベントがあった。この彗星は木星に接近すると強大な木星の引力で5つに分裂。それが次々と木星にぶつかっていくさまはまさに壮大な天体ショー。

 この事件の1年ほど前、筆者はこの天文台を訪ねたことがある。テーマは活用方法。結論は、天体望遠鏡で得られる画像をインターネット経由で発信したらどうか。

 シューメーカー・レビー彗星の木星衝突イベントは、絶好のチャンスだが、これに限らず観測対象は広く一般人やアマチュア天文家から募集(選出は別途委員会で考える)、その映像をネット経由で流す。これだけでは商売にはならないという意見が出るのは当然だか、そこをクリアするのがアイデア。映像配信と同時に、天文関連図書や雑誌、天文関連グッズや機器などの宣伝、さらには中古望遠鏡などの売買仲介などを有料で行う。この自治体は、いわば僻地にあるので、天体観測にはもってこいの地。そこで地元のホテルや温泉旅館の宣伝、紹介、あるいは一体化したイベント企画などを打ち出す。人里離れた山奥を逆手にとるためのツールが天体望遠鏡ということである。

 先日、わが国でも日食が見られたが、この直前に同じ自治体を訪ねる機会があった。考えてみると前回は、この自治体にはまだ速度が10メガ台のブロードバンドのサービスが届いていなかった。だが、今回は話が違う。このサービスを十分享受できる環境は整っている。

 地元の若者たちが動き始めた。その視野には、インターネット経由受注による天体望遠鏡の時間貸しという画期的なビジネスも含まれている。

 今後どのような展開をみせるか。軌道に乗ろうとしている天文台ビジネス・モデルが楽しみではある。

(多摩大学名誉教授 那野比古)