第2回「常識、定説は打ち破られるためにある」

 ことし1月23日、H2Aロケット15号機に相乗りしたメインの温室効果ガス観測衛星「いぶき」とともに7基の小型衛星が打ち上げられ、小型衛星1基を除き軌道投入成功が確認された。小型衛星の中には東大阪市の中小企業連合が開発した「まいど1号」や東京都立産業技術高専の「輝汐」などが含まれる、大学発の衛星は3基を数える。

 「まいど1号」の生みの親は東大阪宇宙開発協同組合。それにしても、一介の中小企業のおやじさんたちや学生たちが人工衛星を開発するなど、最近まではとても考えられない話であった。その常識破りの衛星が現実に地球を周回している。この快挙は、新市場への扉を予感させる。ベンチャー企業などの宇宙ビジネスへの参入である。

 常識とか定説は打ち破られるためにある。今回の打上げに用いられたH2Aロケットは液体燃料エンジンが用いられている。酸化剤に液体酸素、還元剤は液体水素だ。ところで昆虫もやがて液体燃料ロケットで翔ぶ日がくるかも…といったら叱られるだろうか?

 「ミイデラゴミムシ」という甲虫の仲間がいる。いわゆる“ヘヒリムシ”の一種、わが国のどこでも見られるありふれた昆虫だ。この昆虫の体に触れると、白い煙をおしりから噴射して相手を驚かせる。その煙に当たると熱い。ヤケドをするほどで、熱湯をかけられた感覚と似ているという。

 このミイデラゴミムシ、実は体の中に2つのタンクをもっている。一方には過酸化水素、他方にはハイドロキノンという還元剤が貯蔵されている。この2つの物質を反応室に送ると瞬時に爆発的に反応し、生成されたガスがおしりから噴射される。その温度は何と100℃。熱いというのは本当の話であった。

 現在液体燃料ロケットには、過酸化水素とジメチルヒドラジンを用いたものも多用されている。驚いたことにミイデラゴミムシは還元剤こそ異なれ、最先端のロケットと同じ仕組みを備えていたのである。この昆虫があと数十万年も経つと、ひょっとしたら“ロケット昆虫”へと進化しているかも知れない。常識、定説は常に疑ってかかることにより、そこに新たな展望が開けるものである。

(多摩大学名誉教授 那野比古)