シリコンバレー通信 Vol. 24 「米国ブロックチェーン業界の中から見えること〜その1」
2018年03月13日
シリコンバレー通信 Vol. 24 米国ブロックチェーン業界の中から見えること〜その1
最近、新聞やオンライン各誌でも「ブロックチェーン」という言葉を見ない日はないというぐらい、世間でのブロックチェーンに対する興味関心が高まっている。筆者は2016年後半にサンフランシスコに拠点を置く有数のブロックチェーン技術のスタートアップに参画し、ここ1年以上に渡ってブロックチェーン業界の勃興をまさに目の当たりにしてきた。その中で感じていることを、これからいくつかの回に分けて徒然と書いてみたい。
ブロックチェーンの現在=インターネット初期時代?
まず、ブロックチェーンという名前はよく目にするものの、その実態を分かっている人はアメリカでもまだ少ないと言われる。実際ブロックチェーン=ビットコインと思っている人はまだ多いのではないだろうか。そうしたことから、インターネットが誕生した時の世間の反応と似ていると揶揄されることがある。インターネットが誕生した時、インターネットって何?電子メールのこと?などと戸惑う人が多かったようだ。以下のビデオは90年代半ばのアメリカのテレビ番組で「この得体の知れないインターネットって一体なんだ?」と戸惑う人々の様子が見えて、今から見ると非常に面白い。Bill Gatesが「インターネットを使うというのは最近イケてることだからね」と言ったり、Eric Schmidtが「2000年には大小様々の企業が皆インターネットを活用するようになっているでしょう」と予言したり、テレビのホストが「今でさえ情報が溢れているのに、これ以上必要ないわ」と言ったりと。おそらく数年後、今を振り返ると、「当時の人間はブロックチェーンの出現に戸惑って何が何だかよく分かっていなかったんだなあ」と同じく面白おかしく見えるのではないだろうか。
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米国のブロックチェーン業界
ここ1~2年は世界のあちこちでブロックチェーン関連のスタートアップが出現しているが、サンフランシスコではすでに5年以上も前からその動きが起こっていた。ブロックチェーンと一言に言ってもその領域は広い。消費者向けの仮想通貨の取引所もあれば、金融機関を相手にしたB2B向けのプライベートブロックチェーンを開発する会社もあるし、またICOをする開発プロジェクトもあり、それぞれ哲学やカルチャーも異なるし、働く人材のバックグラウンドも異なることが多い。
ブロックチェーン業界自体はビットコインからスタートしたため、当初はいわゆるサイファーパンクと言われるリバタリアン的思想をもつ人が主流を占めていた。そのため、ビットコインとは異なる思想のコインや技術に対してはさながら宗教論争的な論争も起こっていた。しかしビットコインがメインストリーム化するにつれ、ユースケースも広がり、リバタリアン的思想が影響する範囲はどんどんニッチに追いやられつつあるというのが現状だ。現在では、特にB2B向けのブロックチェーン業界においては、個人の自由よりも、いかに政府と強調しながらこの画期的な技術を広めて社会に貢献していくか、という方向に視点が移っている。
二大拠点:サンフランシスコとニューヨーク
米国のブロックチェーン業界においては、一般的にサンフランシスコでは技術系スタートアップが多いが、ニューヨークでは最近特に仮想通貨の機関投資家コミュニティが勢いを増している。アジアでは仮想通貨取引というとまだ一般の個人投資家の投機領域だとみられる向きがあるが、欧米、特に米国では機関投資家(ヘッジファンド、マーケットメイカー、ファミリーオフィス)などが続々と参入のための態勢を整えている。毎年Consensusという世界最大のブロックチェーン・カンファレンスを開催するCoinDesk社は、これとは別に投資家を対象としたConsensus: Investをニューヨークで昨年11月に開催したが非常に盛り上がったという。
東のニューヨークでは伝統的な金融業界にいた人材がブロックチェーン業界に足を踏み入れ始め、西のサンフランシスコでは優秀なテック人材がブロックチェーン業界に参画している。世界の知が続々とこの業界に集中し始めているのを感じる。サンフランシスコのブロックチェーン業界の渦中にいてわかるのは、やはり全ては人材競争に行き着く、ということである。
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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのフィンテック系スタートアップにて事業開発に携わる筆者が、シリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。
(吉川 絵美)