コラム -DECA-
2017年01月18日
DECA
理事長
市川隆治
今年の正月は大変忙しく、また、有意義な時間をシリコンバレーで過ごすことができた。Harker高校を訪問し、生の高校生起業家教育の一端を拝見した。日本ではおよそ考えられない、聞いている人のエモーションに訴えるプレゼンテーションの仕方とか、株やクレジットカードの使い方といった極めて実践的な内容に、教師が熱く語りかけ、生徒も積極的に質問していた。”Active learning” の模範のような授業であった。また同校のExecutive DirectorのRosenthal校長との昼食会の時の話題では、彼等の考えているのは、飛び抜けた生徒のサポート(マイクロソフトのイベントのGuest Speakerで授業に参加できない生徒)と高校生では遅いと考える起業家教育をどのように中学レベルに導入すべきかといったトピックスだったのには驚いた。もう日本との差は何もしなければ広がるばかりだと感じた。
さらに翌日、全米でビジネス界における次世代リーダーを育成するためのプログラムである ”DECA” のシリコンバレー地区大会にも参加することができた。地区大会だけで700人を超える高校生が参加し、それぞれ20科目はあるマークシート試験や面接試験、さらにはビジネスプラン作成試験に臨んでいた。私が参加した面接試験では、試験会場で与えられる課題について10分間滔々とプレゼンテーションをこなし、審査員の質問にも回答しなければならない。DECAのキャリアクラスターは、大きく、①マーケティング、②マネジメント、③ホスピタリティとツーリズム及び④ファイナンスといった4つから構成されており、この点でSAT (Scholastic Assessment Test) やACT (American College Testing)といった他の能力試験と差別化されている。米国の大学では広く認知され、入試に際してもDECAでの活躍は評価されるという。1946年に設立されたDECAは、米国教育省の認可を受けており、今やカナダ、ドイツ、中国、韓国等にもその活動は広がり、全世界で20万人を超える高校生がDECAに参加しているという。しかし、残念ながら日本の参加は見られない。
起業家教育というと通常大学や大学院レベルを想起するが、実は日本においてはもっと前の段階から考える必要があると思う。高校を卒業するまで全く起業やビジネスについての学習もなく、大学に入学したからといっていきなり起業家教育と言われても学生たちは関心を持ちようがない。GEM調査(Global Entrepreneurship Monitor)における起業活動率(各国の起業活動の活発さを表す指標:TEA: Total Early-Stage Entrepreneurial Activity)において、日本は毎年最下位から数えた方が早い位置に甘んじているのはそのためではなかろうか?国民全体に起業についての関心が低い。受験戦争に勝ち残り、いい大学から大企業に就職するという安定志向路線が成功してきた期間が余りに長かったため、大企業もかつてはベンチャー企業であったこと、大企業と雖も激動する世界にあっては大海の小舟のように不安定であることを忘れてしまっている。
思うに、「起業」とは、芸術やスポーツのように、素質のある人物に必要な知識と訓練を提供し、うまくチームを組んで成功を達成するものではないだろうか?芸術やスポーツにおいては高校生やさらにその下の段階で、コンクールや国体といった場が提供され、切磋琢磨して優勝をめざす。その切磋琢磨があるからこそ技能が磨かれ、世界の舞台でも活躍できる素地ができあがるのではないだろうか。
DECAは正に高校生における起業分野における切磋琢磨の場である。やることはマークシート試験や面接試験であるが、そのノリはまるで体育会系である。開会式で学校別の余興があるが、自校の代表が舞台に上がるとフロアから大歓声が挙がる。それが試験になると服装もジャージからスーツにネクタイと、ガラッと変わり、プレゼンテーションは真剣そのものである。ちなみにシリコンバレーという土地柄、インド系と中華系が白人よりも多いという印象を受けた。生徒たちは顔の色に関係なくふざけ合い、談笑しているようであった。試験が終わった夜はダンス大会だった。絨毯を気にしてか、大ホールの真ん中に板が敷かれ、その上だけが彼らのロックに興じる舞台となる。
今後は、高校生のentrepreneurship世界標準ともいうべきこのDECAの活動に日本としても参加し、まず高校生のときから世界に並ぶ起業マインドを持ってもらい、その上で大学・大学院における起業家教育でさらにビジネス実務に近い技能を磨き、世界に伍する起業家を日本から輩出するようにできればと考えている。
(注)DECAはDistributive Education Clubs of Americaの略であるが、70年前の元々の名称の意味は薄れ、DECAだけで通用していると聞いている。