アジア・スタートアップ通信 Vol. 1 「アジアのベンチャー投資の概況①」


アジア・スタートアップ通信Vol. 1  「アジアのベンチャー投資の概況①」

 

近年、アジアのベンチャーブームが脚光を浴びている。中国やインドという大国だけでなく、東南アジアのベンチャー業界の動きも活発になってきており注目を集めている。本コラム「アジア・スタートアップ通信」では、アジアのベンチャー業界の現状についてタイムリーな情報をお届けする。

 

第1回目の今回は、イントロとして、そもそもアジアのベンチャー業界の規模感は世界の他の地域に比べてどのぐらいの大きさなのか、について最新の統計データをもとに明らかにしたい。

 

KPMG InternationalとCB Insightsが共同で発表した、”Q4’15(2015年第4四半期), Global Analysis of Venture Funding” (2016/1/19)によると、2015年のアジアのベンチャー投資総額は、397億ドル(年末時点の為替レートで約4.7兆円)に上り、過去最高額を記録した。しかも、これは2011年から2014年の4年間の投資総額合計を超える額であり、いかに急激な成長を遂げているかが浮き彫りになっている(Figure1)。

 

Figure 1: 2011年から2015年にかけてのアジアベンチャー投資トレンド
(Source: Venture Pulse, Q4’15, Global Analysis of Venture Funding, KPMG International and CB Insights, January 19th, 2016)

 

これを世界の他の地域と比較してみるとFigure 2の通り、アジアのベンチャー投資額は、第1位の北米(742億ドル)に続く第2位となっており、世界全体のベンチャー投資額(1285億ドル)の30%を超えるシェアとなっている。また、第3位のヨーロッパ(135億ドル)を大きく引き離しており、その差は実に3倍近くまで拡大している。

Figure2:地域別ベンチャー投資の規模比較(2015)
(KPMG International及びCB Insights発行の”Q4’15, Global Analysis of Venture Financing”のデータを元に筆者作成)

 

興味深いのは、投資案件数で比較すると、アジアとヨーロッパの間にはあまり差がないということである。これはアジアにおける1億ドル超のメガ投資案件が、特に2015年の前半に目立ったためである。

 

さらに、アジアのベンチャー投資額を地域・国別にブレークダウンすると(Figure3)、中国とインドの二国が実に90%近くを占めていることがわかる。東南アジアは12.3億ドルとなっており、全体の3%に過ぎないが、この額は、2014年度の日本国内のベンチャーファンド等組織の国内外ベンチャー投資総額(1,171億円, VEC YEARBOOK 2015)を超える数字となっている。

Figure3: アジアにおけるベンチャー投資の地域・国別割合(2015)
(KPMG International及びCB Insights発行の”Q4’15, Global Analysis of Venture Financing”のデータを元に筆者作成)

 

このように、2015年のアジアベンチャー投資額は歴代最高を記録し、世界のベンチャー投資の中でもより一層の存在感を示している。しかし、シリコンバレー通信Vol.14『米国ベンチャー投資の変調』でもお伝えした通り、2015年第4四半期(9月〜12月)に見られたベンチャー投資の急激なブレーキは、米国だけにとどまらず、アジアでも同じような急ブレーキの動きが見られていることは注意したい。アジアでは第3四半期の投資額に比べて第4四半期は実に32%もの落ち込みを見せている。アジアベンチャー市場も、2016年はまさに勝負の年となりそうだ。

 

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本コラムシリーズでは、シリコンバレーを拠点に、現在アジア向けのエネルギー環境技術の新規事業に取り組んでいる筆者が、アジアの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。


(吉川 絵美)