シリコンバレー通信 Vol. 14 「米国ベンチャー投資の変調」


シリコンバレー通信Vol. 14  「米国ベンチャー投資の変調」

 

本コラムでは前回の『シリコンバレーバブル」崩壊は間近?』でもとり上げた通り 、シリコンバレーのベンチャー投資の過熱ぶり、バブル崩壊の予兆を指摘してきた。先週になって2015年の米国ベンチャー投資の統計データが相次いで発表され、データを通して、いよいよ市場の変調が明らかになってきた。

 

KPMGとCB Insightsが1月19日にリリースした「Venture Pulse Q4 2015」レポートによると、米国におけるベンチャー投資は2015年全体で$72.4Bnを記録し、これはドットコムバブル最盛期の2000年の投資額($106Bn)に続く歴代2位の記録となった。2014年に比べて26%の成長率であった。しかし、投資案件数で見ると、2014年の5,240件から4,672件へと11%の減少を見せている。これは特に年の前半においてユニコーン企業と呼ばれる、未上場だが企業価値が$1Bnを超えるスタートアップの資金調達合戦によって1案件ごとの投資額が大きかったことを示唆している。

 

 

さらに資金調達の動きを四半期でみると、変調ぶりが際立ってくる。2015年のQ4にはQ3 から$6Bも投資額が減っており、30%以上の減少率をみせている。投資案件数も22%減少しており、これは2011年のQ4以来ぶりの最低水準となっている。

 

 

また、投資ラウンドごとにトレンドを見ると、Q4ではシードラウンドへの投資比率が3期連続で減少している。Q4の全体の投資額が前期に比べて30%減少したことを考えると、シードスタートアップへの投資資金は40%以上減少したことになる。つまり、新たなアイデアへの投資に急ブレーキがかかってきている。

 

 

これらの市場の変調の背景には、スタートアップ企業のIPO成績が芳しくないことに反応して「観光客」投資家(投資信託、ヘッジファンド)が一斉に資金を引き上げようとする動きを見せていること、企業評価額は高いものの赤字を垂れ流して自転車操業しているユニコーン企業が多数浮き彫りになってきたことや、「ダウンラウンド(前回のラウンドよりも評価額が下がること)」が増えてきていることなどによって、投資家マインドが一気に冷え込み始めてきている状況がある。また、2015年12月の米国の利上げによって、このような状況はさらに加速されてきているようだ。

 

KPMG Enterprise Innovative Startups NetworkのCo-LeaderであるBrian Hughes氏は、以下の通り警告する。
「2015年のQ3までは、ポジティブキャッシュフローのスタートアップと同様に、ネガティブキャッシュフローのスタートアップにも潤沢な資金が流れ込んでいた。でも今我々は分岐点に来ている。2016年はファンダメンタルがまた本当に重要になってくるだろう。ネガティブの粗利で、毎月のネット資金支出額(バーンレート)が過剰であるにも関わらず、過大な評価がされているスタートアップは最も影響を受けるだろう」
今後の市場の調整が、ソフトランディングとなるか、ハードランディングとなるか、まだ予断を許さない状況にある。

 

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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのスタートアップにて事業開発に携わる筆者が、自分の意見を踏まえてシリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポート

 

(吉川 絵美)