シリコンバレー通信 Vol. 13 「シリコンバレーバブル」崩壊は間近?」 


シリコンバレー通信Vol. 13  「シリコンバレーバブル」崩壊は間近?」 

                        

2014年10月のシリコンバレー通信でも紹介した通り、昨年から 「シリコンバレーにバブル再来か?」という議論がメディアで盛んに取り上げられるようになってきた。2015年10月に入ってからその議論はますますヒートアップし、いよいよ「いつ弾けるか?」「もう既に弾け始めているのではないか?」という論調が目立ちはじめてきた。アメリカの代表的なメディア各社がこぞってバブルが弾けそうだと警告する記事を出している。

 

たとえば、10月11日付のフォーブス誌(「シリコンバレーのテックバブルが弾け始めていることを示す4つの兆候」)では、次の4つのバブル崩壊の兆候を指摘している。

 

①急ブレーキがかかりつつある IPO市場

 今年上場した企業のうち実に60%がIPO価格割れして取引されており、直近の四半期においては2011年以来初めてのマイナスのIPO リターンを記録した。10月7日には、Pure Storageという、昨年時点で30億ドルの時価総額がつけられた急成長の赤字企業が赤字補填のための資金調達としてIPOをしたが、売り出し価格から5.8%の引き下げという市場の厳しい評決を受けた。この出来事は、急成長しつつも 赤字を垂れ流している他のスタートアップに強烈なプレッシャーを与える一件となった。

 

②「観光客」投資家のシリコンバレー脱出

 近年のバブル加熱が加速した背景には、ビッグマネーを携えた、いわゆる「観光客」投資家(投資信託、ヘッジファンドなど)のシリコンバレー大量流入があった。普通に上場株に投資していてはなかなかS&P500を打ち負かすパフォーマンスを維持することが難しいと知っているこれらの投資家は、上場間近のレイトステージのスタートアップに投資を行うことで、IPOリターンによりホームランを狙おうとしたわけである。しかし直近のIPO市場の変調により、これら「観光客」が大挙してシリコンバレーを脱出する動きが見られるようになるだろう。

 

 

 

③赤字を垂れ流すユニコーン企業

時価総額が10億ドル以上の未上場スタートアップ企業は「ユニコーン」と呼ばれるようになり、現在世界中で140を超すユニコーン企業がいると言われている。これらの企業の多くはまだ黒字化しておらず速いペースで赤字を垂れ流していながらも、その時価総額は根拠ないレベルまで過剰に評価されてきていた。しかしここにきて、これらのユニコーン企業のなかの一部の企業は、資金調達の見通しに弱気になり、レイオフを敢行するなど緊縮経営を行い始める例がいくつか出はじめてきている。

 

④突然厳しくなり始めたスタートアップ企業の資金調達

シリコンバレーの第一線にいる大手法律事務所、Wilson Sonsiniの弁護士は、ここ1ヶ月で、ベンチャー企業の資金調達の条件や評価額が途端に厳しくなり始めたと漏らしている。この状況は第4四半期を直撃し、来年初めにはデータに現れ始め、より明らかになるだろうという。数々のベンチャーディールの最前線にいる弁護士だからこそ肌で感じる変化である。

 

 

これに加えて、今月半ばに、画期的な血液検査技術を開発したとして長年話題を集めて時価総額も90億ドルに達したセラノス(Theranos)という医療系ベンチャーについて、画期的とされる保有技術は実際はほとんど中身がないものだという告発記事をWall Street Journalが掲載し、アメリカ中に大きな衝撃を与えている。このベンチャーは女性起業家がスタンフォード大学在学中の19歳の時に大学を中退して創業した伝説のベンチャーとして有名で、創業者のElizabeth Holmes(現在31歳)はSteve Jobsの再来かと讃えられていたほどのシリコンバレーを象徴する著名若手起業家の一人だったため、この報道は多くの人に失望をもたらした。それと共に、高い時価総額を評価されている数々のシリコンバレーのベンチャーも実は幻想に過ぎないのではないかという不安を引き起こしている。この「セラノス事件」がバブル崩壊の一つのきっかけとして歴史に残るエピソードになるのではと危惧する声も上がっている。

 

バブル崩壊に不安を寄せる人たちが多い中、逆にバブルが早く崩壊して欲しいと望む人たちもいる、と一部米メディアは皮肉る。それはUber(配車アプリスタートアップ)に仕事を奪われた既存タクシー会社のタクシードライバーであり、Airbnb(宿泊マッチングサイト)に宿泊客を奪われたホテルであり、テックスタートアップの勃興により近所の家賃が異常なほどに上昇してしまったサンフランシスコの非テック系住民である、と。

 

タイミングはまだ定かではないものの、いずれ近いうちに現在のバブルが弾ける日は確実にやってくるだろう。しかし、バブルは必ずしも悪いものではない、という見方もある。

 

最後にビル・ゲイツが、ドット・コムバブル末期の1999年にダボスで開かれた世界経済フォーラムにて、バブルについて語った言葉を紹介したい。(Thomas L. Friedman, “Hot, Flat, Crowded”, 2008)

 



I first learned about the value of bubbles from Bill Gates at the World Economic Forum in Davos, Switzerland, in 1999.


Gates was giving his annual Davos press conference on the sate of Microsoft and technology innovation. At the time, the Internet bubble was at its peak. All the reporters there kept asking him variations on the question, “Mr. Gates, these Internet stocks, they’re a bubble, right? Surely, they’re a bubble. They must be a bubble?” Finally, an exasperated Gates said to the assembled reporters: “Of course they’re a bubble. But you’re missing the point. This bubble is going to attract so much new capital to this Internet industry that it is going to drive innovation faster and faster.”


 The do-com bubble funded so much innovation during the 1990s that in just a decade it spawned the Internet-World Wide Web – e-commerce ecosystem that became the IT revolution.  


訳)私がはじめてバブルの価値を学んだのは、1999年にダボスの世界経済フォーラムでビル・ゲイツの言葉を聞いた時だった。


ゲイツは、マイクロソフトとテクノロジーイノベーションの現状について、ダボスにて年次の記者会見を開いていた。当時はまさにインターネットバブルの絶頂の時だった。出席した記者達は皆口を揃えて同様の質問をゲイツに浴びせかけた。「ゲイツさん、インターネット株はバブルですよね?絶対そうです、間違いなくバブルです。バブルにちがいないでしょう?」
ついに堪忍袋の緒が切れたゲイツが、集まっていた記者たちにこう諭した。「ああ、もちろんバブルだよ。でもあなた方は肝心な点が見えていない。このバブルは、今まさに新たな資本を大量にこのインターネット産業に吸い寄せ、イノベーションをどんどん加速させているんだよ」


ドットコム・バブルは1990年代に多くのイノベーション創出のための資金を提供し、たった10年の間にインターネットからWWW、そしてe-Commerceを引き起こす一連のエコシステムを生み出し、それが後ほどIT革命と言われるようになった。

 



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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのスタートアップにて事業開発に携わる筆者が、自分の意見を踏まえてシリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポート

 

(吉川 絵美)