シリコンバレー通信 Vol. 2 「スタートアップ・アクセラレーター最前線 ①」

 

シリコンバレー通信 Vol. 2 “スタートアップ・アクセラレーター最前線 ①”

 

シリコンバレーは空前のアクセラレーターブームである。

アクセラレーターとは、文字通りベンチャーの成長を加速させる仕掛けを提供する組織の総称である。選考に通った有望なアーリーステージの起業チームまたはベンチャー企業に対して、 数ヶ月の特訓プログラムを提供し、ビジネスモデルを確立するための支援を行い、 次の資金調達につなげるためのピッチイベントやデモイベントを開催する。いわば、アーリーステージのベンチャーが独り立ちできる可能性を高めるための支援を行うプログラムである。多くの場合、小額のシード資金を提供する代わりに数%程度の株式シェアをアクセラレーターが取得する仕組みになっている。

 

Y Combinatorや500Startupsなどのいわゆるテック系アクセラレーターが有名だが、近年では、ヘルスケアやクリーンテックなど特定業界に特化したアクセラレーター、地域特化型アクセラレーター、はたまた女性起業家を支援するアクセラレーターなど、テーマによって細分化されてきており、特訓プログラムの内容や、その他の支援の仕方についても各アクセラレーターによって特色があり大幅に異なる。はじめの選考基準を厳しくして少数精鋭型で育成するものもあれば、はじめの選考基準は比較的緩く設定して多めに採用して、コンテストなどを通して徐々に数を絞っていくプログラムもある。

 

今回、筆者率いるチームが、クリーンテック分野では最大のアクセラレーターである、Cleantech Open(シリコンバレー本拠)という団体のアクセラレータープログラムに参加することになった。シリコンバレーのアクセラレータープログラムの一例として、実体験を今後このコラムでご紹介していきたいと思う。

 

Cleantech Openはクリーンテクノロジーに特化していることからも参加起業家の顔ぶれは、他のアクセラレーターとはかなり異なる。 6月末に開催されたCleantech Openプログラムの開会式及び3日間集中講座(「ナショナルアカデミー」)で見たところによると、ビジネス経験が豊富な40〜50代の男性(技術系及びビジネス系)が圧倒的に多いという印象を受けた。70代の人も見かけた。ウェブ系スタートアップが中心のY Combinatorでは参加する起業家の平均年齢が26歳であるというから、違いは一目瞭然である。

 

Cleantech Openのプログラムは毎年1回、約半年に渡って行われる。 書類審査(テクノロジー詳細やビジネスモデル、チームメンバー等の情報)と面接審査を通して最終参加チームが選ばれる。

 

対象テクノロジーのカテゴリーとしては8つに分かれている。ナショナルアカデミーでは特にEnergy EfficiencyとWater関連のスタートアップが多い印象を受けた。
① Energy Generation
② Energy Distribution & Storage
③ Energy Efficiency
④ Chemicals & Advanced Materials
⑤ Information & Communications Technologies (ICT)
⑥ Green Building
⑦ Transportation
⑧ Agriculture, Water & Waste

 

チームは最終選考に通ると、技術やビジネス内容に基づいて、最もマッチする「メンター」が割り当てられる。メンターには3種類あり、Generalist Mentorsはオールラウンドのビジネスやスタートアップ経験等を有し、参加チームとはアクティブ(週1回〜)にエンゲージしながら、チームを成功へと導くガイド役である。一方、Specialist Mentorsは特定分野(マーケティング、テクノロジー、ファイナンス等)のエキスパートとして、複数チームに対して局所的なアドバイスを提供する。さらに、Sustainability Mentorsはそれぞれのビジネスのサステイナビリティ戦略をアドバイスする。提供するプロダクトがサステイナビリティを実現する一助となるとしても、そもそもそのプロダクトの製造工程がサステイナビリティでなければ本末転倒になってしまうから、アーリーステージの段階でもサステイナビリティ戦略をビジネスの中に融合すべきという考えに基づく。

 

プログラムがスタートすると、まずは米国の東海岸と西海岸で「ナショナルアカデミー」と題した3日間の特訓講座が開催される。筆者が参加した西海岸でのナショナルアカデミーでは、数十社のスタートアップが参加し、3日間で40ものセッション(技術実証、ビジネスモデル、ピッチ練習、マーケティング戦略など盛りだくさん)が行われた。さながらブートキャンプであった。キーノートスピーカーは「リーンスタートアップ」の教祖としておなじみのSteve Blankなど一流のスピーカーが、引き込まれるような話術で話をして、起業家のモチベーションを高めた。それぞれの分野ごとの特訓セッションでは、その道の一流のエキスパートが講義をした。どのスピーカーもクオリティが圧倒的に高いという印象を受けた。3日間は朝から晩までエネルギーを消耗し、終わった時はヘトヘトになった。

 

さて、次回のコラムでは、実際のプログラムの中身について一歩踏み込んで具体的に紹介していきたいと思う。

 

写真は2014年6月に開催されたCleantech Openの特訓セミナーの様子。

 

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本コラムシリーズでは、サンフランシスコのスタートアップにて事業開発に携わる筆者が、自分の意見を踏まえてシリコンバレーの起業環境・スタートアップ関連の生の情報をレポートする。

 

(吉川 絵美)