第159回「無から有を生み出すBizモデル㉞‐姿を現した非実体経済『円キャリー・トレード 』」
2013年06月27日
アベノミクスの第3の矢、成長戦略では、ベンチャー企業の育成に強力な施策が打ち出されると期待されていたが、中身はやや期待はずれ。しかし、3つの矢を実行するための現ナマについては、すでに大規模かつ本格的な金融緩和策が実施されている。これによって市中に流れ込んだ資金は、設備投資や更新、ベンチャーの起業、第2創業などの活性化と実体経済のカンフル剤になるものとみられていた。
ところが、蓋を開けてみると、緩和に応えるだけの実体上の需要は、残念なことに利ザヤを狙う別の部門に流れてしまったのである。
しばらく鳴りをひそめていた「 円キャリー・トレード 」も姿を現した。主役は外資。円キャリー・トレードは、低利の日本国債を担保に、空売りで大量の円を手に入れ、これを元手に高利の外国証券を入手するというものである。リバレッジ効果を狙って空売りなど信用取引が行われるのが一般的だ。国債の金利が高くなる(価格は下がる)と、外国証券を売って円を買い戻し、安価に債券を購入して借り債権を清算、この間に生じた利益をポケットに入れる。
ところが、この空売りは自由にできるわけではなく、市場の安定性を考慮し、空売り価格は直近の約定価格以下というアップティック・ルールが存在する。ただしこれは空売り用の国債を国内で調達する場合で、海外での金融機関からの借入は不透明。さらにこのルールの抜け穴に「 ロングセール 」と呼ばれる手法も顔をのぞかせた。借りた国債などを契約の上では見かけ上自分のものとするやり方だ。仕組みは同じなのだが、規制以下の価格で空売りすることが可能になる。。
このような実体経済を離れた利ザヤ取りの世界では、前提が崩れると大問題が発生する。国債の金利上昇に従って価格低下が3ヵ月も続くと、空売り用担保に差し出していた国債などに追加担保(追い証)が要求され、その対応をすることで結局全てを逆回転させてしまい、さらに国債の価格低下(金利上昇)に拍車をかけるという悪循環が発生する根深い副作用も存在する。
さらに古典的な方法の出現も注目されている。それは「裁定取引」。これは例えば現物の日経平均と先物の日経先物とのわずかな価格差に着目する。先物が現物に対し、わずかでも割高だと現物のまとめ買いと先物の売り(いずれも信用)を同時に行う。価格差がなくなると逆の取引を行い、儲けをポケットに入れる。
(多摩大学名誉教授 那野比古)