第148回「無から有を生み出すBizモデル㉓‐国際的に期待が寄せられる新技術の事業化」

 GEF(地球環境ファシリティ)の動きは何か遠いところにある国際機関の話であって、現実生活とは関係ないと思っている方も多かろうが、これは大変な誤解である。GEFは持続可能な開発を主旨ひとつに運動を展開しており、この考え方は今後のあらゆるベンチャーの方向を示すものである。

 

 わが国は米国に次ぎGEFへの出資は第2位だが、これは現在の地球の行く末を眺めた時、今後は持続可能性がいかに重要か先進国として危惧してのことで早い予防的提案の開発を求める。ただし産業による汚染の対策は、個々の産業が負担すべき問題でGEFでは別途となっており、GEFではあくまで全地球的な天候、環境の変化防止に目を向ける。

 

 小さな問題だとしては「倒木更新」なども視野に入る。倒木更新とは、破壊されたブナ林は2度と元に戻らないという問題で、ブナは倒れ木からしか生えることができない。ブナ林を持続可能とするためには、破壊してしまうとそれでおしまいなのである。酸性雨も問題である。酸性雨は地中や土壌中の細菌を絶滅させたり、組み合わせを大変更させることによって本来の生物に大打撃を与える危険性が指摘されている。大きくは世界的な砂漠化の問題がある。特に中国西部の砂漠化は、そこが穀倉地帯であるだけに大変な食糧問題をじゃっ起する。これにはGEFも関与、黄砂モニタリング・システムを設置して早期警戒ネットワークの構築に乗り出しているが、このような動きにはNGOばかりでなく民間セクターの参加、技術開発が欠かせない。ベンチャー企業が開発した安価な砂漠鈍化システムが非常な注目を浴びているのもこのような理由による。

 

 先に産業による汚染除去は別問題と書いたが、中国ではいま大気汚染が深刻化している。深刻化は90年代半ばからというが、当初は石炭火力発電によるNOx(チッ素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)が中心であった。ところが最近目立っているのはモータリゼーションの大発展による前記物質SOxのほか、特にディーゼル、エンジンの排ガスによるPM2.5だ。中国では最近石炭火力発電所への脱硝・脱硫装置の設置は進んでいると言われているが、それに代わって姿を現してきたのが車である。排ガス規制も燃料の脱硫規制もなく、やりたい放題。この解決には上記の規制を強化する以外にないが、この大気汚染は移動性高気圧がキャップとなって東進、日本側にもやってきており、単に一国だけの問題ではなくなってきている。

 

 といって多国間がGEFが取り上げる問題にならない点は、上記のいきさつから十分理解できる。しかし、この2つのケースを重ねてみて、環境破壊を防ぎ、持続的発展を維持させようとする考え方には変わりはなく、その穴を埋める存在として、新たな技術の事業化にかけるベンチャー企業に大きな期待がかけられている点は変わりない。

 

(多摩大学名誉教授 那野比古)