第147回「無から有を生み出すBizモデル㉒‐目新しくないクラウド・コンピューティング-仮想化の本源を理解しておこう」
2013年04月04日
本稿でも早くから取り上げているように、わが国でも電子高取引(EC)に加えいよいよインターネットが選挙運動に活用されようとしている。今のところ立候補などは自分の専用パソコンがベースとなっているケースが多いようだが、ネットワークが上記のように幅広く利用されるに至る背景としては、ここにきて急速な発展をみせている「クラウド・コンピューティング」を避けて通るわけにはいかない。クラウド・コンピューティングは、これまでの汎用的な処理方式を一変するものであり、高額なインフラへの出資をしなくても、優れたアイディアさえあれば簡単に一介のベンチャーがインターネット関連事業に進出できるという大きなメリットもある。
ところでクラウドというと何か全く新しい処理方式が開発されたように聞こえるが、それは完全な誤りである。方程式は、クラウド・コンピューティング=巨大データ・センター=インターネットの仮想化である。つまりインターネットのネットワーク全体が仮想化コンピューターとしてとらえられる。本質は、聞き覚えのあるかつてのPaas(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、Iaas(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)にすぎない。これにSaas(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)が加わっている。クラウドといっても急に変わったことではないのである。ただアプリケーション・ソフトでOSをサーバーのハードウェア上で直接動かすのではなく、計算資源を動的に最適配分できるように計算されたソフトウェアで実装した仮想マシン(VM=バーチャル・マシン)上で動くようにしたところに特徴がある。
サーバー群、さらにはそれを含むネットワーク全体を巨大なコンピューターのように動作させよういうのがクラウドであり、その仮想化の基本はソフトウェアである。従来はユーザー側がそれぞれ専用のサーバーをもち、その 所有 ・管理・運用も自分でやっていた。ところがこのような巨大な仮想マシンができると、所有や管理などは仮想マシンをもつデータ・センターにすべて任せ、自分がマシンを利用する際には簡単なパソコンをもつだけですむようになり、立ち上げのための初期費用・時間・手間が大幅に削減される。
ついでながら前述のPaasはアプリケーション・ソフトをユーザーに提供するサーバー・サービスであるがそのアプリの実行環境をも提供しようというのがPaasであり、ハード・インフラもネット経由でユーザーに提供するのがIaasである。まさにこれを総合したものがIBMが造語したクラウド・コンピューティングに他ならない。
仮想マシンを動かすには一般的なOSは使わず、ハイパーバイザーという専用の実行環境を実装する方式(米VMウェア社のVMwore)と、中間型のハイブリッド型(マイクロソフトのHyper-V)などがある。いずれも複雑なサーバーなど異なるハードウェアに分配したリソースに必要に応じてうまくスイッチしていく必要があり、ここで仮想スイッチの重要性が現われてくる。イーサーネットの拡張は、現在データ・センター内のすべてがイーサーネットで結ばれているが、サーバーとストレージ間あるいはサーバー同士は「SAN」(ストレージ・エリア・ネット)で、他はLANで結ばれるという2層構造になっている。イーサーネットのスピードは今の10倍の100ギガビット/秒にアップとしてSANとLANを統合、仮想スイッチで簡素化し処理速度の向上を図ろうというのだ。すでにファイバー・チャンネル・オーバー・イーサーネット(FCoE)などとして製品化されている。
これまでのサーバー・ネットワークの仮想マシン化からFCoEまで完全に実装できる最初の製品として米シスコのユニファイド・コンピューティング・システム(UCS)が有名なのはこのためである。
サーバー群全体をひとつのコンピューターとして動かすことが可能となった、クラウド・コンピューティング(仮想マシン)の世界である。〔最も簡単な仮想化は、1台のサーバーを数台のサーバーとして利用すること〕
(多摩大学名誉教授 那野比古)