第143回「無から有を生み出すBizモデル⑱‐国際的な動き「GEF」が唱える「デカップリング」」

 本稿第130回「CSV」(クリエイティング・シェアド・バリュー)が持つ根本的な問題は人類共有の財産「バイオダイバシティ」(生物多様性)の持続的維持にあることを述べた。

 

 バイオダイバシティについては1989年アルジェで開かれた「アルジェリア・サミット」(第15回先進首脳会議)でフランスが基金の設立を提案、生物の多様性に関する条約(コンベンション・オン・バイオロジカル・ダイバーシティ:CBD)として採択されているもので、これらに基づく条約や議定書の基金メカニズムの実施本部は米国のワシントンにある。名称は「地球環境ファシリティ(GEF)」。ついでながらGEFは上記条約ばかりでなく、気候変動枠組条約(UNFCCC)、オゾン層保護基金(モントリオール議定書)、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPS)、砂漠化対処条約(UNCCD)など、地球規模の環境に資本を提供する最大の国際基金となっている。わが国は当初から基金を拠出しており、案件がGEFで承認された政府関係機関ばかりでなく、民間企業、NGOのプロジェクトを大々的に支援している。

 

 プロジェクトは1件100万ドル以上の大規模なフルサイズ、同未満の中規模、45万ドル未満の条約対応能力構築、5万ドル以下の小規模融資の4つ。バイオダイバシティの概念については、生体が持つ価値について、単に保全すればいいというものではなく、それを将来にわたって継続させ、さらにそれら生物資源から得られる利益を分配する規約を持たなければならない。

 

 GEFでは、①保全については企業などの会計に自然の価値を自動的に組み込めるよう、つまりここでは外部資金を内部化出来る自然資金会計の設立を求めている。②継続・持続に関しては、バイオダイバシティを加味した各界の権威ある認証制度の設立が重要である。認証のない商品の出荷は不可能というわけである。③生物資源から得られる利益の分配は「生態系サービスへの支払い(PES)」がテーマとなる。例えばある大きな河川で、下流の取水利用側が、上流の森林守備側に対して資金を提供するといった具合である。ここで貫かれているものは「サステナブル」(継続性)の確保である。それが再生・再利用を促すという考え方だ。

 

 さらにGEFは「デカップリング」を強く推し進めている。デカップリングでは、経済発展とそれに伴う人口増加と、資源消費などによる環境への負負荷。この2つを常に切り離して考え、今後の製品開発に生かそうとする。資源消費を抑え、持続可能なものとし、環境負負荷を最小限にすることが求められる。製品・サービスの再定義が必要ということである。

 

 かつてフィリピンのルソ島の北部には、クサミズキという樹木が多く生きていた。だが、今これは1本も無い。この絶滅もフィリピンの自然大損害の一つでもある。クサミズキは抗がん剤イリノテカンの製造原料となるカンプトテシンを大量に含んである。イリノテカンは現在世界で1千億円市場と言われている。もしフィリピンがラワン材の出荷とともにクサミズキまで伐採し尽くしていたとすれば、莫大なしっぺ返しを自然から受けているということになる。

(多摩大学名誉教授 那野比古)