第139回「無から有を生み出すBizモデル⑯-ネット選挙活動の焦点はメールの扱いとネット広告」
2013年02月14日
昨年の米大統領選挙(第132回、カッコ内は本稿参照回)以来、本稿でも取り上げているインターネットの選挙運動への活用が、我が国でも今年夏の参院選挙に向けて本格化してきた。各政党はそれぞれ私案を作成、2月中にも国会に提出。公職選挙法の改正など関連法案の成立を目指すという。
ネットの選挙運動への利用についてはすでに2010年の参院選の前に与野党合意が得られていた。しかし法律化ができず、今回改めて急浮上しているのがネット解禁の問題である。2010年の各党合意で興味深いのは、第一に電子メールでの呼びかけである。呼びかける主体としては候補者、特定の候補者や政党を支持または反対する有権者、それに特定の政党への支持などを訴える第三者である。ところでこのような3者に、メールによる呼びかけを解禁してしまうとどうなるか。てんでばらばらにネット空間を多様なメールが飛び交い、ユーザーのパソコンには不必要なメール(これをジャンク・メールという)が山のように積み上がってしまう。もし特定のユーザーに対してたまたま全国からこのようなジャンク化が行われると、そのユーザーのパソコンに異常すら発生しかねないと危惧する人もいる。
もっとも具体的にはメールの送信をどのように禁止するのかは明らかではなく、連呼メールをみつけた人が特定の場所に通知しそれを削除してもらうしか方法があるまいが、それにしても実効性に疑問が伴う。メールで発信され、それを受けて転送されたりすると、その情報は一瞬にして全ネット世界に拡散してしまう。ひとたび拡散した情報を回復するのは不可能な話である。今回の提案ではメールについて、受信に同意あるいはあらかじめアドレスを通知している人、不特定多数と大きく2つに別れているが、後者の場合はジャンク・メールの山ができるのは必定だ。
第2はネット広告業者、特にそのバナー広告を利用できるかという点である(第137回)。前回合意では候補者のみ広告を出させるとしていた。しかし今回は、政党に限り、あるいは政党と候補者に限りが打ち出されている。ネット広告業者は、自らの広告を広く見てもらえるよう様々な訴求技術を駆使しているのが特徴で、素人が自らのサイトを利用した発信よりはるかに効果は高い。知名度のない候補者や政党、極小規模の新しい政党などにとってはネット広告は無視できない。これらバナー広告費は選挙運動の活動費用から支払われるのは当然だが、ネット広告を大々的に進めるために、泡沫候補を立てて費用を広大させるという手合いも考えられている。
昨年の米大統領選挙で大活躍したウェッブ・サイトだが、これはすべて解禁とする方向で全政党がまとまっており、これにはツイッターを含まれる。候補者、その支持者、政党は当然御礼を含め選挙のすべてを語り出すことができる。米国では新たなITのプロ、グロース・ハッカーが大活躍する場ともなった。
どうしても気がかりなのはパソコン弱者(デジタル・デバイド)への対応である(第136回)。選挙情報の非対象化の世界に一部の有権者をネットワークを介して置き去りにしてしまうことは、ある意味で憲法違反だとの声もある。希望者にはタブレット端末などを配布し、研修の場をつくることは政府の責務といえるのではないだろうか。
(多摩大学名誉教授 那野比古)