第137回「無から有を生み出すBizモデル⑭-選挙で脚光浴びる民間のネット・サービス会社」
2013年01月31日
別人になりかわって、つまり「なりすまし」で、特定の人物を中傷する書き込みが増えている。警察庁は、自殺の勧めや児童ポルノなど有害な書き込みを多くのネットについて見張り、見つかればネットの管理者に削除を要請したり、当局に通報する事業の民間委託団体として「インターネット・ホットライン・センター(IHC)」(東京・港区)を指定している。なりすましによる中傷の監視などは本来のIHCの仕事ではないが、このところ本人や第3者からの通報が急増、2010年には2,300件弱と最多となり、うち80件超が当局による摘発の対象となったという。
なりすましによる中傷書き込みについては、その違法性を証明するのが非常に難しく、しかもひとたび他のネットに転載されると中傷書き込みは一人歩きの拡散を始め、原状に戻すのが不可能というネット特有の問題点をかかえている。早急な発見は、自分の名前で検索してなりすましを見つける方法、第3者が見つけてくれる方法の2つしかないが、なりすましを警戒するために自己名で常に検索というのも情けない話。ネットワーク参加者の厳しいモラルが問われているのである。
選挙ともなると対立政党や候補をなりすまし中傷する事態が相次ぐと懸念されている。一方、ある候補のツイッターに反応するフォロワーが沢山いるからといって、そのフォロワーが必ずしも支持・投票者という訳ではない。フォロワーが選挙権のない外国人や年齢層の人は別として、フォロワーの数を増やして他を威圧するという手口も現れようとしている。
選挙に民間のネットワーク・サービス会社を採用、多額のカネを支払ってフォロワー獲得を目指す。ネット上では何でもありきの事態である。ヨーロッパの債務危機の真っ直中にあるイタリアでは、ユーロの威信をかけた総選挙が2月上旬に実施される。2012年末に首相の座を自ら投げ出したマリオ・モンティ氏を始めとして多くの候補が特にツイッターの活用に腐心している。モンティ氏は17.5万人のフォロワーを集めた。ところがここにきて急進をみせているのがコメディアンでユーロ圏脱却の頭目、ベッベ・グリッロ氏を党主とする新興政党の5つの星運動。早くからネットワークの活用に力を入れており、ツイッターのフォロワーは他政党を大きく引き離し何と81.5万人。最も高い支持をほこるピエルルイジ・ベルサニ氏の民主党でも22.5万人しかいない。
ところで選挙宣伝に限らずネットを利用した広告によってどの程度支持者、購買者が増えるのであろうか。非常に単純な見方としてよく示されるのは次のような例である。ネットをみなくても指示・投票を行う固定層が3%あるとする。ところがネット上に宣伝やつぶやきを頻出させることによって、蓋をあけてみると支持・得票数は12%に跳ね上がっていた。そうするとこの広告は支持・投票者を従来の3倍に引き上げた効果をもつことになる。実際はもっと綿密な調査が必要だが、ネットを宣伝に活用できると、チラシ代の印刷・配布費がたちまち不要となり大幅な節減が可能なばかりでなく、支持者を何%増やすにはどこにいくらのカネを注ぎ込めばいいかといった費用計算もできるかもしれない。ここにもまた、民間のネットワーク・サービス会社が顔を出す大きな余地が存在している。
(多摩大学名誉教授 那野比古)