第132回「無から有を生み出すBizモデル⑩-世界初ネットワークで共感を得票に変えた大統領バラク・オバマ」

 衆議院総選挙も前回報告のように終了したが、期待したほどのクラウド・ファウンディングの利用はみられなかった。この点で突出していたのは米国での大統領選挙である。史上初めて、クラウド・ネットを最大限に活用して大統領選挙を制覇した人物が出た。バラク・オバマである。

 

 彼の対抗馬であったロムニーもネットワーク使いでは引けをとらなかったが、オバマとはやや方向が異なる。この問題は次回で取り上げるが、いまや「オバマ効果」と称されるネット活用の最大の成功は、これまでは投票所にも行かず、声をひそめていたいわゆるサイレント・マジョリティを対象にネットの力で声なき声を現実の世界に引き出し、それを政治への参加意識へと見事に変えた点である。

 

 その中心となる共感という概念もネットを使ってオバマ自身が訴えかけたCHANGEという強力なメッセージであった。このメッセージのもとで声なき声をひとの声へと昇華させた。かつては有権者に訴える言葉は単純であった。例えば反共。このひと言を唱えるだけで群衆が集まり、選挙を有利に展開できた。しかしいまは違う。有権者の価値観が大幅に広がり、収入、宗教、人権、文化などによってさまざまな価値観が創出されている。この多様性をまとめるためにはメッセージが必要で、それがオバマにとってはCHANGEであった。

 

 オバマは自分で自身のネットワークをクラウドに展開する初めての大統領になった。彼はネット献金だけで何と650億円以上を集めた。その金額のほとんどが個人からの献金で平均1人当たり100ドルであった。ちなみにこの程度の金額ベースの献金はロムニー陣営では16%に過ぎなかったという。このあたりはこれまで本欄で何回も取り上げてきたクラウド・ファウンディングの項目を参考にして頂きたい。

 

 オバマのネットでの素晴らしい点は、自身から選挙民へ発信するサイトと、選挙民から自身への受信サイトをはっきり分けた点である。さらに時代の変化の速さをいち早く取り入れたスマホからのアクセスを可能にしたモバイルサイトも立ち上げており、これらによって集めたアドレス数は1500万件以上といわれている。

 

 オバマに共感した有名人やアーチストによるネット上での発言だけで700万人のサポーターを生み出す効果もあった。この面でもオバマは史上初、一晩に献金としては最高額1500万ドルを集めた。昨年11月ロサンゼルス郊外の人気俳優ジョージ・クルーニーの自宅で大パーティが開かれた。チケットは1枚4万ドルで50人が購入し、ハリウッド・スターが多数参加。面白いのはこのパーティに参加する権利を1枚3ドルでネットワークでかき集めたことで、この権利による抽選が行われた。

 

 オバマの受信ネットの中心は、実現してもらいたい政策への書き込みが中心になるが、ここではまた問題も発生している。というのはその主には同性愛者やマリファナ解禁論者が多かったからだ。特にオバマへの大口献金者の6人に1人は同性愛者だったという。今は米国の各州で同性愛者同士の結婚やマリファナの自由化が求められる方向にある。

(多摩大学名誉教授 那野比古)