第129回「「CSV」無から有を生み出すBizモデル⑦‐2012年「CEATEC Japan」で受賞したAkisa」
2012年12月06日
毎年東京ビックサイトで開かれる電子応用製品の一大展示会「CEATEC Japan」では、2012年から出展された中から優れた製品、技術、サービスを表彰するCEATEC・AWARDに総務大臣賞と経産大臣賞が設けられ、2012年末に行われた受賞式で総務大臣賞に富士通の「食・農クラウドAkisa(秋彩)」、経産大臣賞のシャープの酸化物半導体「IGZO」がもたらす未来であった。
ここで何故と注目されたのは富士通のAkisaである。実はCSV(クリエイティング・シェアド・バリュー)がらみで大きく評価されるというのである。それはなぜか。まずはこの富士通のAkisaの内容を眺めてみたい。
食・農クラウド・Akisaは、農業者に対して、コストや品質を見える化し、利益が出る経営者を支援する。農業はこれまで、慣習と勘に頼るどんぶりビジネスといわれながら、そこに本格的なメスを入れようとする人はあまりいなかった。
例えば、驚いたことに生産原価は全く掴めていない。肥料や人件費、使用農機具の償却など全く考慮されていない。同じ人件費でも作物、天候などによって大きくコストは変化するはず。だがこれまでは何らの配慮もなされていない。ということは、作物を販売した際、いくら利益が出ているのかはさっぱり判らない。いわんや、どの作物も栽培するのが最も有利かなどといった戦略的経営など実施のしようがない。Akisaはこの欠点の打破を狙って開発された。自己の農作物の種類や時関係、天候、気温などをモバイル端末に入力しておくと、作物ごとの原価を算出することが可能となり、出荷額の中の利益を明確化出来る。これは作付けの戦略的な立案によって利益を最大化する道を開く。
データの処理はクラウド・システムに記されて行われ、富士通ではこれをソシャル・クラウド事業と呼んでいる。顧客は最少月額4万円のシステムの利用料を支払う必要があるが、利益の明確化のメリットはこれを凌駕する。
CSVの概念の中には、地域の競争基準の強化と地域への貢献が謳われている。例えば、作物などの原料を調達する発展途上国などに対して、企業側は、インフラ投資や医療・教育分野への投資ばかりでなく、作品や製品の品質の向上、地域の生産性の向上に資するツール、システムなどを提供する責任を負う。
それ以前の問題として、原料を提供する側が企業体として利益を出せる体質になるよう手助けする必要がある。相手が収益が見える化出来、その中からシステム使用料を支払うことが出来るようになれば、双方の両立ウィン・ウィンの関係を築くことが出来る。これがCSVの基本形の一つだ。
ついでながら富士通は、関連の富士通マーケティングで、非常時には企業の通信システムそのままそっくり、即座にクラウドに丸ごと写し、事業を継続出来るというクラウド上にレプリカを自動生成出来る機能も提供している。これまでクラウド上にこのようなレプリカ・システムを構築しようとすると、専用のソフトや機器が必要だったが、マイクロソフトの新しいサーバー用のOSを使うことによって、このようなサービスを可能とした。
それは、これまでと同じ商売の延長ではないかと言う人もあろうが、災害など非常時への対応をいち早く顧客と共有することでビジネスの展開と顧客の利益を図る点では、CSVの基本に似ている。
先のAkisaに戻ると、現在でも原価コストが割り出せない中小の業種は極めて多い。CSVがらみのビジネスの芽は至る所に転がっている。
(多摩大学名誉教授 那野比古)