第123回「無から有を生み出すBizモデル①‐新エネルギーにかけるファンドの組成」

 最近は本欄でも紹介した「KIVA」(キーバ)などといった奇妙なファイナンスが台頭し、マイクロファイナンスとともに注目されているが、少額資金を集めて風力発電などに投資しようという、云わば新たな形式のマイクロファイナンスが欧州などで大流行している。この方式の特徴は、資金を提供しながら、その分はちゃんと回収でき、場合によってはプラスになることを“悟る”という極めて斬新な方式である。

 具体的にはこうだ。いま1カ月に1世帯当たり電気代1万円を支払う1万世帯の町があったとする。この町で、1世帯につき月額電気料金の5%を風力発電など新エネルギー分野への投資に拠出することにする。そうすると1世帯1カ月500円が通常の電気料金に上乗せされ、月に合計1万500円の支払いとなる。上乗せ分を町全体で合計すると1カ月に500万円。5年間では3億円と、巨額な金額となる。これに自治体などからのほぼ同額の補助金などを加えると最新鋭風力発電機2、3基を簡単に建てることが出来る。

 この仕組みでは、全世帯の電気料金の徴収を代行し5%の上乗せ金を集める機関が必要となるが、欧州では新エネ指向と相まってNPOを含む様々な組織がこれに参加している。

 問題は拠出した5%分の回収にある。しかもそれは簡単に出来るという。種明かしは、電力使用量を5%減らすのである。5%の省エネ文を出資に回すと言ってもいい。そうすると全体としてはプラス・マイナス・ゼロ。このゼロ・無の中から拠出金・有が生まれているともいえる。それどころか、この仕組みによってユーザーの省エネ意識が高まり、5%以上電力使用分が少なくなった世帯では、逆に電気代を節減出来るという高価もある。

 このような仕組みは一般に「グリーン・ファンド」などと呼ばれている。拠出金は実質的にはどのようにして回収されるのであろうか。それは稼働を始めた風力発電機からの電力を直接配電、あるいは電力会社に売電することによって、電気料金の支払いを大幅に減らすことが可能という点である。特に売電の場合、FIT(フィード・イン・タリフ)制によって電力会社により買い上げ金額が行政によってきめられているため、将来の収入の計算が保障されることにもなり、グリーン・ファンド計画は一層立て易いものとなった。特にわが国の場合は本年7月からFITが動き始めており、特に風力、太陽光、地熱をエネルギー源とするプロジェクトで今はこのような資金集めの動きは加速するものとみられる。わが国では2001年に第1号風車を建てたNPO北海道グリーンファンドが活動している。

 ただこの方式にも一つ弱点がある。それは今述べたFITだ。各新エネルギーに対する電力会社の買い上げ金額は行政側が決めるが、この金額は情勢によって変動、下落する可能性があるということである。

 欧州ではドイツやスペインで実際にこの状況が起こっている。風力や太陽光発電所建設に際して、政府は多額の補助金を提供してきた。一方、建設側はFITによって将来的な収支を確定することが出来、これは儲かると各地で一斉に新設の炎が上がったことだ。政府はこの多額補助金金額の見直しを迫られ、FITの価格を下げることによって新設へブレーキをかけようとしているのである。

 だが、いずれにしてもこのグリーン・ファンドのアイデアは、新エネばかりでなく排出CO2削減など他の分野にも応用が可能で、今後注目の的となりそうである。

(多摩大学名誉教授 那野比古)