第119回「シェール・ガス③‐わが国でも始まる削掘の実体の詳細を眺める」
2012年10月04日
117回で、米テキサス州でバーネット頁岩層からシェール・ガスの採掘に成功、米エネルギー危機を救ったベンチャー企業創業者ジョージ・ミッチェルの話をしたが、頁岩(シェール)からガスを採り出す動きは全世界に広がっている。
米国では非在来型と呼ばれるシェール・ガスの産出のおかげで、天然ガスの価格は2分の1に大暴落してしまった。
わが国でもこの非在来型資源の開発が注目され、石油資源開発は秋田県・由利本庄市の鮎川由利油ガス田や男鹿市の申川油田でシェール・オイル、シェール・ガスの採り出しを2014年にも手がける予定だ。
国際石油開発帝石も新潟県長岡市の南長岡ガス田で、またJX日鉱日本石油開発は佐渡ヶ島の南西沖で、それぞれシェール・ガスの開発に着手するという。
ところが、このシェール・ガスの開発だがいいことばかりではない。一方では著しい環境破壊の危険性を秘めている。そこで米国での一般的なシェール・ガス開発の状況を眺めてみよう。
まず地下1500mから2500mにある頁岩(シェール)層に垂直にボーリング、続いて先端にマッド・モーター・アセンブリーと呼ばれる傾斜掘り用の装置をパイプの先に付けて、次第に掘削の方向を垂直から水平へと変えていく。1本の垂直のボーリング孔、これはパッド(基地)と呼ばれているが、こうして一つの基地から7~8本の水平坑井が掘られる。水平坑井1本あたり500万ドルほどかかるという。
水平坑井には適当な間隔で穴が開けられており、坑井に流した高圧流体「ハイドローリック流体」を穴から噴出させることで周辺の頁岩を砕く。短時間に多段階にわたり圧力9000psi、1分間70バーレルを一挙に注入するといわれているが、次にみるハイドローリック流体の成分と同様、ここは重要な企業秘密となっている部分が多い。注入に要するポンプの圧力は最大1000気圧。
ミッチェル氏が最も苦労したのは頁岩を破砕するハイドローリック流体の開発だったという。一般的には、93.3%は水で、これに5%のプロペラントと呼ばれる微小な砂粒を加えたところがミッチェル氏のみそ。さらに、このあたりは企業秘密の塊だが、粘性降下剤(界面活性剤)0.04%、腐食防止剤0.03%、スケール防止剤0.01%それに塩化カリ(KCL)、酸などが加えられている。酸はガスとは反応せず、不純物の酸化カルシウムと反応してこれを除去するために使うという。
この他様々な添加物が加えられているが、これらの成分の具体的物質名などについては全く明らかにされていない。地方行政機関は企業秘密遵守の名目で企業に成分を公開することは求めていない。
この流体は1坑井あたり1万㎥使われるといい、地上に回収される廃水は1日22万㎥に達するところもある。実はここに新たな環境破壊の芽が含まれている。
※従来型の天然ガスは砂岩層などの中の粒間に存在しており、その層にボーリングを入れるだけで自圧で噴出してくる。
(多摩大学名誉教授 那野比古)